- 「夫がいるとイライラして辛い!」
- 「夫と一緒にいると体調を崩すようになった。できれば離婚したい…」
夫の言動が原因で妻の心身に不調をきたすことを夫源病と呼びます。夫源病の改善には夫婦仲の改善やストレス発散が有効ですが、夫がいないと症状が軽減することから離婚を考える方も少なくありません。
しかし夫源病を理由に離婚は認められるのでしょうか?この記事ではまず夫源病がどのような病気なのかについて触れたあと、実際に夫源病を理由に離婚が認められるケース、離婚できない場合の対処法について解説します。
夫源病とはどんな病気?
まずは夫源病(ふげんびょう)がどのような病気なのかについて解説をします。夫源病はその文字の通り夫が原因で生じる体調不良のこと。正確には医学的な病名ではなく、循環器医師の石蔵文信氏が中高年の女性患者と接する中で気づき、命名したものです。
夫といるときに原因不明の食欲不振や不眠、頭痛やめまい、動機、息切れなどさまざまな症状が表れるのが特徴です。夫が帰宅するとき、自分が夫のいる家に帰宅するときに症状が出やすく。逆に夫が不在だと症状がなくなる傾向があります。
環境の変化などが主な原因
夫源病は50代~60代以降の夫婦で増加する傾向があります。特に在職中は家を不在にすることが多かった夫が、定年退職を機に家にいるようになることがきっかけで発症する事例が多いです。
夫が家にいる時間が増えると妻の今までの生活リズムが崩れます。この環境の変化が夫源病の引き金だと考えられています。また50代~60代以降の女性の場合、女性ホルモンの急激な減少でストレスに弱くなることも原因とされています。
もちろん若い方が夫源病を発症しないというわけではありません。コロナ禍をきっかけに夫がテレワークになり、夫と家で一緒にいる時間が増えた妻が夫源病になったケースもあります。年齢に関係なく結婚し夫と過ごす以上誰にでも夫源病になる可能性はあると言えるでしょう。
夫源病になりやすい女性
以下のいずれかに該当する方は、夫源病になりやすいため注意が必要です。
- 夫に自分の意見を言いにくい
- いやなことがあっても我慢してしまう
- 夫に自分の行動を干渉されたくない
夫に自分の意見を言えない方、何か嫌なことがあっても我慢する方は夫が原因によるストレスを溜め込みやすい傾向があります。また夫とある程度は距離を置きたいと思っている方、干渉されるのが嫌な方は夫と過ごす時間が増えることでストレスを抱えることになり、夫源病を発症しやすくなります。
夫源病の原因になりやすい男性
次は逆に夫源病の原因になりやすい男性について、具体例も踏まえながら見ていきましょう。
- 妻を自分より下に見ている
- 妻の行動に口を出す
- 家事を妻任せにする
- 交友や趣味が少ない
妻を自分より下に見ている
亭主関白タイプで、妻を自分より下に見ている男性です。特に妻が専業主婦の場合は「自分が妻を養っている」という意識が強く妻は夫に従うべきだという固定概念に囚われがちです。場合によってはDV、モラハラに発展するケースもあります。
妻の行動に口を出す
妻の行動をチェックし、口を出す男性も夫源病の原因になりやすいです。このような夫が家に長くいるようになると妻の行動に色々と口を出してくるようになります。妻は今まで自由にできていたことが不自由になり、生活ペースが大きく崩れストレスを溜め込むようになります。
家事を妻任せにする
家事がほとんどできず、自分は暇であるにも関わらず妻任せにするタイプです。妻が忙しかったり、体調が悪かったりしても家事を要求します。このタイプは女が家事をやって当然と思っているため、感謝の言葉もかけません。
また家事を妻任せにする夫の在宅時間が増えると妻が自分の昼食を作るのが当然と考え「今日の昼ごはんは何?」「昼食まだ?」等と昼食を催促するようになります。昼間一人で家にいる妻は、自分の昼食にはあまり気を遣わないものです。しかし夫の在宅によって昼食のことを考えなければならず、ストレスがかかるようになります。
交友や趣味が少ない
友達が少ない、自分の趣味が少ない夫も要注意です。仕事以外での外出の機会がないため妻が出かけようとすると自分もついていこうとします。本当は一人で買い物に行ったり、友達と出かけたりしたいにも関わらずついてくる夫に、妻はストレスを募らせるようになります。
夫源病を理由に離婚できる?
ここからは実際に夫源病を理由に離婚ができるかについて解説をします。離婚に際し相手に請求できるお金についても確認しましょう。
相手の同意が得られれば離婚できる
まず離婚の理由が何であれ、夫婦間で話し合いをして相手の同意を得られれば、離婚届の提出によって離婚ができます。このように話し合いで離婚することを協議離婚と呼びます。
話し合いで離婚ができない場合は家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停委員を介して離婚に向けた話し合いを行います。それでも離婚ができない場合、法的に離婚を認めてもらえるか裁判所に判断をしてもらう離婚裁判を行います。
離婚裁判で離婚が認められるケース
離婚裁判は裁判所が離婚について判断を下しますので、相手の同意がなくても離婚が認められます。しかし裁判で離婚を認めてもらうためには、民法で離婚が認められている理由、いわゆる法的離婚事由が必要です。
法的離婚事由は以下の通り。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みがない強度の精神病
- 婚姻を継続しがたい重大な事由
夫源病そのものは法的離婚事由ではない
離婚理由が夫源病のみの場合は法的離婚事由に該当すると判断されない可能性が高いです。そもそも夫源病は正式な病名ではありません。しかしその他の事情が法的離婚事由に該当する場合、それを理由に離婚が認められる可能性があります。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 不倫をしている
- 生活費を渡さない
- DV・モラハラがある
不倫は法的離婚事由の不貞行為に該当します。不倫相手と肉体関係がある証拠が用意できれば、裁判で離婚が認められる可能性が。
また夫源病そのものは離婚事由になりませんがDVやモラハラがある場合は「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性があり、離婚が認められることがあります。
生活費を渡さないなどの経済的DVは、離婚事由の「悪意の遺棄」とみなされることも。悪意の遺棄とは夫婦間の同居義務・協力義務・扶助義務を故意に放棄することであり、生活費を渡さない行為は扶助義務に違反します。
夫源病での離婚時に請求できるお金
近年では共働きが増えつつあります。しかし夫源病を理由に離婚するか悩んでいる方の中には、生活費を夫の収入に頼っている方もいるでしょう。そのため経済的な不安を理由に離婚を思いとどまる人もいます。
実際に夫源病を理由に離婚する場合、どのようなお金を請求できるのかについて確認しましょう。
財産分与
婚姻中に夫婦が協力して築いた財産は、離婚時に夫婦で均等に分けることができます。これを財産分与と呼びます。婚姻中に購入した不動産、預貯金はもちろんのこと、夫名義の退職金も分割して受け取ることが可能です。
退職金を財産分与の対象にした際に受け取れる金額については、以下の記事で詳しく説明をしています。受け取り前の退職金についても扱っていますので、配偶者が退職していない方もぜひお読みください。
退職金も離婚時の財産分与になる!金額計算から請求方法まで解説します
厚生年金の分割
婚姻期間中に納付していた厚生年金については、離婚する際に夫婦で分割し、それぞれ自分の年金にすることができます。厚生年金に加入しており、夫のほうが収入が多い方は必ず手続きをしましょう。
年金の分割方法には合意分割制度、3号分割制度の2種類があります。夫婦間での話し合い、裁判で年金分割の割合を決めた場合は合意分割制度を利用できます。相手の合意がない場合、もしくは離婚から2年以内の場合、国民年金第3号被保険者から請求することにより、相手方の保険料納付記録を半分ずつ分割できます。
年金の分割をするには年金分割のための情報提供請求書が必要です。近くの年金事務所、もしくは年金相談センターに指定の書類を提出して請求を行ってください。書式は日本年金機構のホームページからダウンロードもできます。
慰謝料
慰謝料は相手が行った不法行為に対し、精神的苦痛を受けた際に請求ができます。夫源病は正式な病名ではないため、それだけを理由に慰謝料を請求するのは難しいことです。しかし明らかなDVやモラハラがあった場合、それによって外傷や精神疾患に罹った場合は慰謝料を請求できます。
慰謝料は自分から相手へ直接請求が可能です。相手が支払いに応じない場合は弁護士を介して請求する、もしくは慰謝料請求の調停や裁判を行います。
実際に慰謝料を請求するには相手に非があるという明確な証拠が必要です。DVを受けている場合は相手の音声を録音・録画したデータ、受けた外傷の写真や診断書が有効です。
養育費
夫婦間に子どもがいてあなたが親権を得た場合は、相手に養育費を請求できます。養育費は原則として子どもが経済的に自立するまで受け取れます。そのため子が成人していても、障害や病気などがあったり大学に通っていたり等、経済的に自立していない場合は20歳を超えても養育費を受け取れます。
夫が離婚に応じない場合の対処法
相手方のDVなど明確な法的離婚事由があれば、夫が離婚に応じなかったとしても裁判で離婚が成立する可能性があります。しかし相手に明確な不法行為がない場合は裁判で離婚ができないため、相手の同意を得られない限りは離婚ができないということになります。
では実際に相手が離婚に応じてくれないときにはどうすればよいのかを解説します。
自分の意見を言う
すぐに環境を変えられそうにない場合は、夫源病を少しでも軽減することを考えましょう。夫源病を軽減するには抱えているストレスを我慢しすぎないことです。
夫源病は自分の意見を夫に伝えにくい女性、ストレスを溜め込む女性がかかりやすい傾向があります。特に長く夫婦生活を送ってきた方が夫源病を発症するのはずっと夫に対し我慢をし続けていたことも原因です。夫の言動で辛いこと、耐えられないことがある場合、それを相手に伝えてみましょう。
第三者に悩みや症状を相談する
本人に伝えるべきだと分かってはいても実際に夫に意見を言うのは難しいと感じる方も多いはずです。また夫に自分の考えを伝えても、必ずしも夫婦仲が改善するとは限りません。
夫源病の原因となっている男性は「自分はよき夫である」「妻を理解している」と思いがちな傾向があるためです。このような方に妻が意見を伝えても、自分の非を認めず逆に怒り出すケースもあります。
しかし夫源病を軽減するには我慢しないことが大切です。夫本人に伝えるのが難しいのであれば、自分の中で溜め込まず第三者に相談することで気持ちが楽になります。そこで、夫源病の軽減に有効な相談先を紹介します。
夫婦カウンセリング
夫婦カウンセリングとは、夫婦問題の悩み相談に特化したカウンセリングです。第三者の客観的な意見を聞くことにより、自分の態度や心がけを考えるよいきっかけになるはずです。
オンラインカウンセリングに特化しているうららか相談室では、夫源病を専門にした窓口も設けています。カウンセリング方法はビデオ・電話・メッセージ・対面の4種類があり、いずれも料金がかかりますが、病院に行かず臨床心理士や公認心理師のカウンセリングを受けたい方におすすめです。
(参考:オンラインカウンセリング うららか相談室)
心療内科
心療内科はストレスが原因となる身体的症状を診察する診療科です。夫源病によって睡眠や食事など普段の生活に支障が出ている場合、そのことが更なる体調不良を引き起こす可能性がありますので、早めの受診をお勧めします。
心療内科の診療は問診が中心です。体調不良の原因についてじっくりと話をすることができ、状況によっては症状を軽減する薬を処方してもらえます。
配偶者暴力相談支援センター
モラハラやDVを受けている場合は国が運営している支援センターへの相談を強くお勧めします。全国各地に設置されている女性相談センター(配偶者暴力相談支援センター)はDVを受けている女性からの相談を受け付けており、必要に応じて一次保護や援助を行っています。
生活費を渡さない、暴言などのモラハラ行為も相談の対象です。どうしても夫との生活が辛いという方は無理をせずに専門機関に頼りましょう。
(参考:内閣府 男女共同参画局|配偶者からの暴力被害者支援情報)
別居する
夫が離婚に応じない場合、別居は非常に有効な手段です。相手と距離を置くことにより、お互いに冷静になる時間が生まれ、先のことを落ち着いて考えられるように。離婚を切り出した際は感情的になった相手も、再度の話し合いで同意してくれる可能性があります。
また長い期間別居を続けていると婚姻関係が破綻しているとみなされ、裁判で離婚が認められることも。
相手に無断で別居はしない
別居をする際には相手に黙って出ていくことはやめましょう。相手からの同意なしで別居することは夫婦の同居義務を破ることになり、法的離婚事由の悪意の遺棄に該当します。するとあなた側が有責配偶者となり、離婚裁判の際に不利になる恐れが。必ず相手に断りを入れてから別居をするようにしてください。
具体的にどれくらいの間別居すれば離婚が認められるのか、また実際に別居に踏み切る際の注意点については以下の記事でまとめています。別居を考えている方は併せてお読みください。
別居からの離婚が成立する期間はどれくらい?必要な期間や別居する際の注意点
夫源病の場合は数日の別居も有効
頼れる人がおらず別居する場所が確保できないという方は、ホテルなどを利用し数日間別居するだけで夫婦関係が改善することがあります。
夫源病の原因になる夫は家事を妻任せにする傾向があるため、数日妻がいなくなっただけで「自分一人では何もできない」ことに気づきます。どこに何があるのかも分からず、日常生活さえ困難になるケースも。妻のありがたさを実感し、態度を改善させる人もいます。
弁護士に相談をする
夫婦関係が改善する見込みがなく離婚したくて仕方がない方、相手の同意が得られず離婚裁判も難しそうな方は弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼することのメリットは以下の3つです。
- 離婚の可否、慰謝料の有無を確認できる
- 相手と交渉をしてもらえる
- 不利な条件での離婚を避けられる
離婚の可否、慰謝料の有無を確認できる
先にも触れた通り、夫源病そのものを理由にした離婚は難しいのが現状です。しかし状況によっては裁判で離婚が認められることもあります。弁護士に相談をすることで裁判で離婚が認めてもらえるかどうか、さらに慰謝料の請求ができるかどうかを確認できます。また離婚するには具体的にどうすべきかも助言してもらえます。
相手と交渉をしてもらえる
妻から離婚を切り出されると、大抵の方が冷静さを失います。特に夫源病の原因になる男性は「妻を養ってきた」という自負が非常に強い方が多いため、妻から離婚を切り出されると「今まで養ってきたのに」「恩知らずだ」と逆上し冷静な話し合いは見込めないケースが大半です。
弁護士に依頼をすることにより、相手との交渉を全て一任できます。妻相手には感情的になる夫でも、第三者には礼節をもって接する方が多いものです。弁護士を介することで夫との冷静な話し合いが期待できます。
不利な条件での離婚を避けられる
夫源病の原因になる夫は妻より自分のほうが有利だとみなす傾向があるため、離婚に際してもそうあるべきだと考えます。そのため「財産は渡さない」「子どもは置いていけ」など、離婚と引き替えにあなたに著しく不利な条件を提示することがあります。
夫婦関係に有利・不利はありません。家計の収入を夫が担っていたとしても、妻が夫を支えていた以上は対等であるべきであり不利な条件を飲む必要はありません。弁護士を介し交渉をすることにより、このような不利な条件をきっぱりと拒絶することが可能です。依頼者が安心して新しい生活を送れるよう力を尽くしてくれるはずです。
まとめ
夫が夫源病の原因になっていて離婚したい場合、相手の同意があれば離婚ができますが離婚裁判で離婚を認めてもらうことは厳しいです。ただし夫源病以外に相手のDVやモラハラがある場合、相手に不貞行為がある場合は離婚を認めてもらえる可能性があります。
夫源病を改善するには夫婦関係の改善が不可欠です。そのためには相手に意見を伝えたり別居したりすることが有効です。またストレスを溜め込むことが夫源病の原因ですので、第三者に相談をするなどの対処も必要です。
しかし状況が改善せず、やはり離婚をしたいという方は弁護士に相談することをお勧めします。夫が離婚に応じてくれないという場合も弁護士に交渉を任せることにより、スムーズに手続きを進められます。