- 「慰謝料を請求され、その場で支払いを約束してしまった…どうしよう…」
- 「不倫相手が『慰謝料を払う』と言っていたのに、連絡が取れなくなった!」
不倫の慰謝料について「支払いをする!」と口頭で約束をしたものの、後から金額が相場より高額であったことに気づく、もしくは支払いを拒否したくなって悩む方は少なくありません。
不倫の慰謝料の口約束は、法的に有効なのでしょうか。あとから条件を変更することはできないのでしょうか。この記事では口約束で決めた慰謝料を拒否もしくは減額ができるかどうかを解説します。
また不倫の慰謝料を口約束で決めることのリスク、示談書を作るメリットや手順についても解説します。慰謝料について口約束をしてしまい、困っている方はぜひ参考にしてください。
口約束での合意でも法的には有効
まず前提として、示談をする際には書面に残さないといけないという決まりはありません。口約束のみの決定でも約束した内容は有効です。口約束で決まった慰謝料を支払い、お互いに納得したのであれば何の問題もありません。
しかし書面での約束とは異なり、口約束での内容を後から証明することは困難です。お互いに「言った」「言ってない」の水掛け論になったり、後から予期せぬトラブルに発展したりする可能性があります。
そのため録音などの証拠が一切残っていない場合、慰謝料の約束は立証不能となり、法的には無効なものであると扱われることになります。
会話の録音があれば約束を証明できる
口頭の約束でよくあるトラブルは、後からお互いに言っていたことに食い違いが生じることです。言ったことが証拠として残っていない場合、そのことが事実であると証明することはできません。そのため約束したことを法的に実現することは困難になります。
しかし会話を録音した音声データが残っているのであれば、慰謝料請求の証拠として有効になる可能性があります。不倫をした側が「そんなことは言っていない」と開き直ったとしても、データを提示することで態度が変わり、慰謝料の支払い義務を認めることもあり得ます。
口約束が無効になるケース
慰謝料を支払う義務がある方が「慰謝料を払う」と口にした音声データが残っている場合、それを証拠として慰謝料を請求される可能性はあります。
しかし音声による証拠の場合、会話の前後の流れや内容により、無効なものとして扱われやすい傾向があります。以下のいずれかに該当する場合は、有責者が「慰謝料を払う」と発言をしていても証拠として採用されない可能性が高いです。
- 不倫の事実が不明確である
- 約束の内容が常識から逸脱している
- 約束に具体性がない
- 慰謝料を請求する側の言動が威圧的である
不倫の事実が不明確である
慰謝料とは、不法行為などによって相手が精神的・肉体的苦痛を受けたことに対して支払われる損害賠償を指します。不倫の場合、以下の全てに該当する場合にのみ慰謝料請求が認められます。
- 不貞行為(肉体関係)があった
- 既婚者だと知らずに不倫をした
- 不倫が原因で結婚生活が破綻した
相手が不倫をしたという事実が不明確の場合、いくら口頭で「慰謝料を払う」と伝えていても、請求が認められないケースもあります。
約束の内容が常識から逸脱している
約束の内容が社会的に認められない場合、常識から逸脱している場合は、民法90条の規定により自動的に無効として扱われます。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
出典:e-GOV 法令検索|民法
例えば年収300万円の人に慰謝料3000万円を支払うよう要求するなど、慰謝料の相場を極端に超える金額の請求です。
不倫に対する慰謝料の相場は不倫が原因で離婚しない場合は50万~100万円、離婚した場合でも150万円~300万円程度です。実際の金額は個々の状況によって異なりますが、いずれにしても法外な請求は無効として扱われます。
また条件についても、「異性と一生口をきかない」「〇〇県には二度と足を踏み入れない」など個人の自由を著しく制限する約束は自動的に無効となります。
約束に具体性がない
先述の通り、慰謝料を支払うという口約束は法的に有効です。しかし金額や支払い期限、支払い方法が決められていない場合、法的拘束力を持つ契約としては認められない可能性があります。
慰謝料を請求する側の言動が威圧的である
不倫の慰謝料請求の場に限らず社会通念上ふさわしくない状況での要求は、法的に無効なものとして扱われます。
具体的には「慰謝料を払わないと会社にバラす」などの脅しを受けるなど、不倫をした側が「慰謝料を払う」と口に出さざるを得ない状況におかれているケースです。
会話の前の部分がまったく録音されておらず、突然「慰謝料を払う」という音声だけが記録されている場合も同様です。このような脅迫が背景に存在している可能性を否定できないためです。
そのため録音された口約束を証拠とする場合は会話の前後の流れも重要視されます。あくまでも自然な会話の流れによる約束が証拠として有用です。
口約束で慰謝料を決めることのリスク
ここまで解説をした通り、口約束での慰謝料支払いの約束は、書面での示談と比較すると法的拘束力に欠けると判断せざるを得ないものです。ただ実際には「内容を紙に残したくない」などという理由から、口頭で慰謝料の金額を取り決めする方も少なくありません。
しかしあなたが慰謝料を請求する側、請求される側のいずれであったとしても慰謝料を口頭で決めることはお勧めできません。口約束で決めた慰謝料の取り決めは、状況によって無効になるケースも少なくないためです。またそれ以外にも、口約束で慰謝料を決めることは以下のようなリスクがあります。
- 細かい取り決めができない
- 約束を反故にされる恐れがある
- 示談内容についてトラブルになる
- 法的手段を取れない
- 再び不倫されるリスクが高くなる
細かい取り決めができない
慰謝料の請求で重要なことがらは、金額と支払い方法、支払い期限です。口頭での約束の場合、金額の取り決めは行うことができても、具体的な期限や支払い方法については漏れが生じるケースが大半です。
慰謝料を支払う意思は確認ができても、相手からなかなか支払いをしてもらえずに気を揉むことになるかもしれません。
また口頭での約束の場合、以下のような不倫に関する同意条項が為されない事例が大半です。
- 接触禁止
- 今後配偶者と接触しない
- 口外禁止
- お互いに不貞行為について口外しない
- 清算条項
- 示談書で決めた慰謝料以外の請求を行わない
書面での示談書の場合、慰謝料だけでなく上記の事柄を全て記載することができます。お互いに合意する前に何度も内容を吟味できるため、同意から時間が経ってから後悔することを防げます。
約束を反故にされる恐れがある
書面で示談書を作成する場合、お互いの住所を書くことは法的に必須ではありません。しかし実際の現場では万が一に備え、双方もしくは加害者側の住所や連絡先を示談書に記載することが一般的です。
口頭でのみ慰謝料を支払う約束をした場合、相手の連絡先はおろか氏名も知らないままになることが珍しくありません。有責配偶者を介して連絡をしようとしても、LINEしか知らない上にすでに相手にブロックされてしまい、慰謝料の支払いがなされないまま音信不通になってしまったという事例も。
請求時効を経過してしまうケースも
慰謝料は決して安い金額ではありませんので、支払いの意思があってもすぐには支払えないという方が多いです。しかし「いずれ支払うのであれば」と期日を曖昧なままにしていると慰謝料を請求できる時効を経過してしまう恐れがあります。
慰謝料を請求できる時効は不倫事実や不倫相手を知ってから3年です。また不倫の事実を知らなかった場合、不倫が行われてから20年が時効です。不倫相手と慰謝料を決めているということは前者の3年に該当するため、時効は決して長いとは言えないでしょう。いくら支払いをすると約束していても、時効を1日でも経過すれば無効になります。
示談内容についてトラブルになる
口約束での示談の場合、お互いに同意したと思っていても細かい部分で認識の違いが生じがちです。そのため後から内容に食い違いが発生し、トラブルになる可能性があります。
例えば口約束で慰謝料200万円を支払った、という事例があったとしましょう。お互いにこれで納得ができれば示談が成立します。しかし後になり、以下のような事柄を根拠に追加で慰謝料を請求されることも懸念されます。
- 不倫期間が長かったことが分かり、さらに精神的負担を負った
- 配偶者に求償請求(慰謝料の負担を請求)した
- 配偶者が慰謝料を負担した
- 慰謝料支払い後に再び配偶者と接触した
書面での示談書を作成してお互いに所持することにより、内容についてのトラブルを低減することができます。追加で慰謝料を請求されたとしても「示談書にこのように書いてある」と後から証明ができるため、終局的な解決を図ることができます。
法的手段を取れない
口約束でもお互いの同意があれば契約は成立し、法的拘束力が発生します。しかし先に解説をした通り、口約束は法的に無効だとみなされやすいという懸念があります。
また相手が約束を反故にしたことを理由に法的手段を取ろうとしても、相手の連絡先が分からない、もしくは連絡手段をブロックされている場合は行動に移せません。そのまま請求時効を迎えて泣き寝入りになるという事例も決して珍しくありません。
慰謝料の示談書を作成するメリット
紙面の示談書を作成することは、不倫した側とされた側双方にメリットがあります。具体的にどのような利点があるのか、項目に分け解説をしていきます。
約束内容を証拠として残せる
示談が成立したとしても口頭での合意だった場合、後から内容をめぐってトラブルに発展する恐れがあります。特に不倫をした側の場合、後から何らかの理由によって追加で慰謝料を請求されるリスクに留意しなくてはいけません。
しかし紙面で示談書を作成することによってお互いに合意内容を手元に残し、客観的に判断することができるようになります。将来的なトラブルを未然に防ぎ、終局的な解決を図れます。
不倫の再発防止になる
不倫をした配偶者と離婚をせずに婚姻関係を継続する場合は不倫関係との関係を解消させることが非常に重要です。紙面で示談書を作成することにより、相手との関係を解消する旨や今後接触をしないこと、相手と接触をした場合の違約金を盛り込むことができます。
これらの内容は口頭で約束することも可能ですが、物理的な示談書はいつでも内容を確認できるため存在だけで強力な抑止力になります。不倫をした側も、不倫ときっぱりと縁を切るきっかけになるはずです。
離婚する際の証拠になる
不貞行為は法的離婚事由の一つです。配偶者が離婚を拒否していたとしても、不貞行為があったことを裁判で立証できれば法的に離婚を認めてもらうことが可能です。
不倫相手が不倫を認めた示談書がある場合は不貞行為の強力な証拠として利用ができます。
示談書の作成方法と注意点
それでは実際に示談書を作成するにはどうすればよいのでしょうか?不倫の示談書というと専門家に依頼をするというイメージをお持ちの方が多いかもしれませんが、自分で作成することも可能です。具体的な手順と注意点を解説していきます。
示談書に記載すべき内容
不倫の示談書に記載すべき内容は、個々のケースによって異なりますが、基本的は以下のような項目が記載されます。
- 不倫を認める条項
- 慰謝料の支払いを認める条項
- 慰謝料の支払い方法や期限
- 求償権の放棄
- 不倫関係の解消、接触禁止についての条項
- 清算条項
不倫を認める条項
慰謝料は不貞行為に対して支払い義務が発生するものです。その所在を明確にするために誰と誰がいつ不倫をしていたのかを明示します。
乙は甲に対し、丙が甲の配偶者であることを知りながら、丙と〇年ころから〇年〇月ころまでの間、不倫関係にあったことを認め、甲に対し深く謝罪をする。
慰謝料の支払いを認める条項
慰謝料の金額が合意できている場合、その金額を記載します。
乙は甲に対し、本件慰謝料として金○○万円の支払い義務があることを認める。
慰謝料の支払い方法や期限
慰謝料を支払う期日や支払い方法を記載します。慰謝料の支払い方法は一括払いだけでなく、分割払いを選択することもできます。分割払いの場合、毎月どれくらいのペースで支払うのかを明示するようにしてください。
乙は甲に対し、前条の金員につき、○年○月○日までに、甲の指定する以下の口座に振り込んで支払う。振込手数料は乙の負担とする。
慰謝料を分割払いにする場合の注意点、トラブルを回避するためのポイントは以下のページで詳しくまとめています。慰謝料を請求する側・される側双方にとって有用な内容ですので、ぜひ参考にしてください。
不倫慰謝料を分割払いできる?請求する側・される側の注意点とトラブル回避のポイントとは
求償権の放棄
不倫は不倫相手一人だけで行えるものではなく、配偶者と不倫相手との共同不法行為に該当します。そのため本来であれば慰謝料の支払い義務は不倫相手だけでなく、配偶者にも発生します。
しかし離婚せずに婚姻関係を継続する場合、不倫相手にのみ慰謝料を請求し、配偶者には請求しないケースが大半です。この場合慰謝料を請求されなかった配偶者に対し、不倫相手は慰謝料の一部を請求することが可能です。これを求償権と呼びます。
不倫後も離婚せず婚姻関係を続ける場合、不倫相手が求償権を行使することを避けるために求償権の放棄についての条項を設けることが一般的です。
乙は本件に関し、丙に対する求償権を放棄する。
不倫関係の解消、接触禁止についての条項
不倫相手が配偶者と再度不倫関係になることを防止するため、不倫関係を解消し今後の接触を禁止する条項を設けます。この条項を確実にするために、違約金を設定することも有効です。
乙は丙との不倫関係を解消し、今後丙と電話、電子メール、SNSなどの方法を問わず、一切接触を行わないことを約束する。
清算条項
今回の示談を以て当事者間のトラブルはすべて解決し、今後いかなる請求も発生しないことを明示するために清算条項を必ず設けましょう。
甲と乙は、本示談書に定めるほか、甲乙間に何らの債権債務関係がないことを互いに確認する。
お互いが署名押印し、一枚ずつ保持する
示談書は同じものを2通作成し、お互いに署名押印をして一枚ずつ所持します。書類のやりとりの方法としては、実際に会って作成をするほか、代理人弁護士に作成を依頼する、郵送で押印の依頼をするなどが挙げられます。
ただし直接相手に会いたくないからといって、作成した示談書を突然郵送で書類を送付することはお勧めできません。相手が条件を全て受け入れ、すんなりと署名押印をするとは限らないためです。
そのためお互いに話し合いの機会を持ち、お互いに納得した上で示談書を作成するようにしてください。
ただし話し合いをしてから示談書作成に時間がかかる場合、示談書に署名をする段階になって「そんな話はしていない」と言われる恐れが。話し合いの内容を録音をしておくことでそのようなトラブルを回避することが可能です。
公正証書にすることで法的手段が取れる
個人や弁護士が作成した示談書は「私文書」と呼ばれます。万が一相手が書面の内容通りに慰謝料を支払わなかった場合でも、財産の差し押さえなどの法的な手段を取ることができません。
しかし公証役場で公正証書を作成することにより、判決と同じ効力を持つようになります。慰謝料の支払いの不履行があった場合は、財産や給与、不動産の差し押さえができるようになります。
公正証書は、当事者同士(もしくは代理人)が公証役場に行くことで作成が可能です。一括払いでの慰謝料の支払いが見込めるのであれば問題はありませんが、分割で慰謝料が支払われる見込みの場合は公正証書の作成を強くお勧めします。
示談書作成は弁護士に依頼もできる
示談書は自分で作成することが可能です。しかし一人で書類を作成することが難しい場合、相手と連絡することを避けたい場合は専門家である弁護士に依頼をすることをお勧めします。
書類の内容についてはもちろんのこと、相手との交渉や公正証書化の手続きを一任することが可能です。相手方が万が一示談内容を違反した場合も、対応をスムーズに依頼することができます。
依頼の相場や手順については、法律事務所が設けている無料相談であらかじめ確認をすることができます。これから示談書の作成を考えている方はぜひ活用をしてみてください。
お住いの地域で、離婚問題に強い弁護士を見つける>>
まとめ
口頭で慰謝料を決めた場合でも第三者が客観的に判断ができる録音のデータがあれば法的に有効であると扱われます。しかし口約束で不倫慰謝料を決めてしまうと、後になって認識の違いが生じトラブルにつながることがあります。約束したはずの支払いが行われなかった場合でも、証拠がなければ十分に主張できない可能性もあります。
このようなトラブルを防ぐためには合意内容を示談書として残しておくことが大切です。書面に残すことによって、不倫をした側もされた側もトラブルを防止することが可能です。示談書は自分でも作成が可能ですが、迷ったときは弁護士に相談し、無理のない形で解決を目指すことをお勧めします。