- 「結婚を約束したけど別れたい、法的に問題はある?」
- 「婚約者から婚約破棄したいと言われた。慰謝料は請求できる?」
結婚の約束をしても全てのカップルが結婚できるとは限らず、結婚前に別れてしまう人たちもいます。しかし婚約が成立していた場合、婚約破棄を理由に慰謝料の支払いが発生するケースも。では一体どのような状況を婚約と定義するのでしょうか?またどのような場合に慰謝料が発生するのでしょうか?
この記事では結婚の約束をした相手と別れたい人、もしくは相手から別れを切り出された方双方に向け婚約や婚約破棄の定義について詳しく解説をしています。どのような状況で慰謝料が発生するのか、また実際に婚約を解消する手順や婚約を解消された際の手続きについても紹介していきます。
婚約破棄の定義とは?
婚約破棄とは婚約が成立しているときに一方的に婚約を取り消すことを指します。お互いの同意の上で婚約を取り消すことは「婚約解消」と呼ぶため婚約破棄には含まれません。
婚約はお互いの「結婚したい」という意志のもとに成り立ちますので、もし片方にその気がなくなったとしても強制的に婚約関係を継続することはできません。そのため婚約破棄は誰でも自由に行える行為であると言えます。
しかし不当な理由による婚約解消は民法第415条で定められた債務不履行責任、民法第709条の不法行為責任に該当する可能性があり、慰謝料、式場の予約金などの賠償金を支払う義務が発生します。
- 債務不履行責任
- 契約義務を果たさないこと
- 不法行為責任
- 他人の権利や利益を不法に侵害すること
婚約破棄に該当する条件
婚約破棄による慰謝料が発生する条件は以下の二つ両方に該当することです。
- 婚約が成立していること
- 正当な理由なく婚約を解消したこと
婚約の成立には法律で定められた形式は存在しません。この後詳しく解説を行いますが、慰謝料を請求するためには第三者に提示ができる婚約の証拠が必要です。
また一方的な婚約解消は正当な理由があれば認められ、慰謝料の請求の対象となりません。もし自分が婚約を解消したい側だった場合は正当な理由の証拠を提示することにより、慰謝料の支払義務がなくなる可能性があります。
婚約を法的に証明するには
先述の通り婚約には法的な規定はありませんので、口約束のみでも婚約が成り立ったと主張すること自体は可能です。しかし法律の場においては客観的な婚約の事実、婚約の証拠の有無が非常に重要視されます。
婚約の事実
結婚に向けて以下のような具体的な準備をしていた場合、慰謝料請求において「婚約が成立していた」と認められる可能性が高いです。自分の証言以外に婚約の事実を証明できるかどうかが鍵になります。
- 結納を取り交わした
- 親に結婚を前提とした挨拶をした
- 友人や職場に婚約者として紹介した
- 結婚式の下見・予約をした
- 婚約指輪や結婚指輪を購入した
- 妊娠した
婚約の証拠
慰謝料を請求する側が「婚約していた」と主張したとしても、相手側が慰謝料を払いたくないという気持ちから嘘をつく可能性は十分にあります。その場合は「婚約が成立していたこと」を証拠として提示しなくてはいけません。
婚約を破棄された側としては「元婚約者に関係するものは見たくない」「破棄したい」という気持ちになるかもしれません。しかし以下のような証拠を残しておくことにより、慰謝料請求が裁判にまで発展した場合の有力な武器に成り得ます。
- 婚約指輪・結婚指輪、購入時の領収書
- 結婚式の申込書、内金払い込みの領収書
- 結納品、もしくは結納品購入の領収書
- 結婚の約束に関するメールやSNS、通話の録音
4つ目の結婚の約束に関するやりとりについては、結婚式に関する相談など内容が具体的であれば証拠として認められます。「ずっと一緒にいよう」というように結婚のことを指すか曖昧な表現については、結婚を意識していない男女間でもあり得るやりとりのため証拠としては認められません。
婚約が成立していないケース
口頭でプロポーズを受けただけの場合、相手から「言っていない」と言われてしまえばそれ以上追及することは不可能になります。いわゆる口約束だけでは婚約が成立していないとみなされ、慰謝料の支払は発生しません。
繰り返しになりますが、慰謝料請求において重要視されるのは客観的な証拠です。そのためお互いに結婚の話をしていたとしても結婚に向けて具体的な行動を取っていない場合は婚約が認められないでしょう。
婚約破棄に該当する正当・不当な理由とは
婚約破棄によって慰謝料の支払義務が発生するかどうかは婚約破棄の理由が正当なものかどうかも関係します。婚約破棄は破棄する側に非があることもあれば、破棄される側に「これでは結婚はできない」と判断するに十分な理由、ここで言う正当な理由があるケースもあります。
婚約破棄される側に正当な理由がある場合は婚約破棄される側が慰謝料を支払います。逆に正当な理由がなく、不当な理由によって一方的に婚約破棄をする場合は婚約破棄する側が慰謝料を支払うことになります。
婚約解消が認められる「正当な理由」
婚約破棄における正当な理由は法律で明確に定められているわけではなく、交際期間や婚約破棄に至った過程、お互いの行動などに基づいて判断されます。社会常識に照らし合わせ、やむを得ないと判断された場合は「正当な理由」と判断される可能性が高いです。具体的には以下のようなケースが該当します。
- 不貞行為があった
- DVやモラハラ、常識を逸脱した言動があった
- 失業などで経済状況が大きく変化した
- 相手が精神病や身体障害者になった
- 相手に性的問題がある
- 相手が行方不明になった
不貞行為があった
ここでの不貞行為とは婚約者以外の異性と性的な関係になることを指します。また婚約者が実は既婚者であり、それを隠していた場合も同様です。
DV、常識を逸脱した言動があった
相手からDVを受けた場合もそれを正当な理由として婚約を解消できます。DVと一言で表してもいくつか種類があり、具体的には以下のようなものをDVとして挙げることができます。
- 身体的DV
- 殴る・蹴る・物を投げるなど
- 精神的DV
- 暴言を吐く・侮辱する・無視するなど
- 性的DV
- 性行為の強要・中絶の強要
- 経済的DV
- 生活費を渡さない・仕事をさせてくれないなど
また社会的なマナーを守っていない、他人に迷惑をかける行動をしている場合も「常識を逸脱した言動」を正当な理由として婚約破棄が認められる可能性が高いです。
失業などで経済状況が大きく変化した
相手が失業・リストラなどに遭った場合、収入がなくなるため今後の結婚生活に不安を感じる方が多いはずです。収入状況よって結婚生活を送ることが経済的に難しいと認められた場合、婚約破棄の正当な理由となります。
また相手に多額の借金があることが判明した場合も同様、結婚生活の維持が難しいとみなされ婚約解消が認められます。
相手が精神病や身体障害者になった
相手が重度の精神疾患になった場合や身体障害者になった場合、今まで思い描いていた結婚後の生活が大きく変化することになります。そのためいずれも婚約を解消する正当な理由となります。
相手に性的問題がある
性的問題とは具体的に以下のようなものを指します。
- 性的に不能である
- 異常な性癖がある
- 肉体関係を強要された
性的問題の中には大変デリケートなものもあるため、隠したまま結婚するという方もいます。しかし結婚後に性的問題がが発覚した場合、隠していたこと自体も不法行為にあたるため慰謝料を多く支払わなくてはいけない可能性があります。
相手が行方不明になった
相手が結婚前に行方不明になった場合は婚約を解消でき、婚約解消側が慰謝料を請求されることはありません。なお居所不明になることは婚姻関係にある夫婦間でも法定離婚事由として認められており、配偶者が3年以上生死不明の場合は法的に離婚が可能です。
婚約解消による慰謝料が発生する「不当な理由」
以下のような理由による婚約解消は正当な理由としては認められず不当な理由での婚約解消であるとして慰謝料を請求される可能性があります。
- 性格の不一致
- 心がわりした・他に好きな人ができた
- 親が反対している
- 信仰の相違がある
- 人種や国籍、その他差別
性格の不一致
人間関係において誰かに対し「性格が合わない」「気に入らない」という気持ちを抱くことは決して珍しいことではありません。しかし既に婚約が成立している段階では、これらの理由は正当な理由として認められません。
心がわりした・他に好きな人ができた
婚約関係にあるにも関わらず「結婚する気がなくなった」「他の人が好きになった」というような心変わりによって婚約解消を試みることは身勝手であると判断され、正当な理由としては認められません。
また他の異性と肉体関係を持つことは言うまでもなく不貞行為に該当し、慰謝料を支払う義務が発生します。
親が反対している
結婚するのであれば親に祝福してもらいたい、という気持ちを抱くことはごく自然なことです。しかし親の反対は正当な理由になりません。あくまでも結婚するのは本人同士ですので、本人に関係がないことは不当な理由として扱われます。
相手の両親と性格が合わない
結婚の約束をしていても、いざ相手の実家に訪問したときに違和感を持ったり、自分とは合わないと感じたりすることは決して少なくありません。相手の親とどうしても価値観が合わず結婚を取り消すという方も実際にかなり多いです。
しかし法律の場においては相手の親と性格や価値観が合わないという理由だけでは正当な理由とは認められませんので注意してください。
ただし以下のように相手側が公序良俗に反する行為をしてくる場合は「共同不法行為」としてみなされ、相手の親に慰謝料を請求できる可能性があります。
- 嘘の悪口を吹き込み結婚の意欲を失わさせる
- 近所に悪口を言いふらす
- 嫌がらせをする
信仰の相違がある
相手が何らかの宗教に入信していた場合、家庭や子供にどのような影響を与えるか心配になり結婚を迷ってしまう方もいるかもしれません。逆に自分が宗教に入信しており、相手の理解を得られず結婚を迷う…という方もいるでしょう。
しかし日本では憲法において信仰の自由が認められているため、相手の宗教やお互いの信仰の違いを正当な理由にはできません。ただ相手に宗教を入信するよう強制された場合は正当な理由として判断されることもあります。
人種や国籍、その他差別
日本の歴史によって生まれた身分差別は未だに完全には消えてはいません。そのため相手が被差別部落の出身であることが分かった場合、それをきっかけに婚約破棄を考えるケースもゼロではありません。
しかし皆が平等であることは憲法にも定められている通りで差別はあってはならないことです。同様に国籍や人種などを理由に婚約破棄をすることも正当な理由とはみなされません。
不当な理由による婚約解消で請求できるお金
婚約破棄に正当な理由がない、不当な理由による婚約破棄の場合は婚約破棄をした側に損害賠償責任が生じるため、婚約廃棄された側は慰謝料を請求することができます。
これは最初に述べた通り婚約破棄は「不法行為」、婚約という約束を破った「債務不履行」にあたるためです。逆に婚約破棄に正当な理由がある場合、その原因を作ったとして婚約破棄をされた側に慰謝料発生義務が生じます。
なおいずれの場合でも請求ができるのは慰謝料だけではなく、婚約破棄による損害金も対象となります。
慰謝料
不当な理由での婚約破棄は、破棄される側に精神的な苦痛を与えるため慰謝料が発生します。慰謝料の金額は50万円~300万円が相場。婚約破棄された側の年齢が高かったり、交際期間が長かったりした場合は慰謝料が高額になります。
また相手の不貞行為が原因であり、浮気相手が婚約の事実を知っていた場合は浮気相手にも慰謝料を請求できます。婚約破棄による慰謝料については以下の記事で詳しくまとめています。
婚約破棄の慰謝料相場・高額になる要因|確実に獲得する請求方法とは?
婚約解消による損害金
婚約解消により以下のような金銭的被害が発生した場合、その金額についても請求ができます。
- 婚約指輪の購入費
- 結納金
- 結婚式・新婚旅行のキャンセル料
- 家財道具や住宅の購入費用
- 逸失利益(結婚を機に退社した場合)
- 養育費(妊娠していた場合)
婚約指輪
婚約破棄をした原因が指輪を受け取った側(女性側)にある場合、指輪の購入費用を相手に支払うか指輪を返還しなくてはいけません。なお指輪を送った側(男性側)に婚約破棄の原因がある場合、破棄された側に指輪を返却する義務はなく、男性側が返却するよう請求することもできません。
結納金
結納金とは、嫁をもらう男性側の家族が、女性側の家庭に支払う品物・金品のことを指します。もしお互いが合意の上で婚約解消になった場合、結納金は支払った家族に返還することになりますが、結納金を支払った側が原因で婚約破棄になった場合は結納金の返還を求めることはできません。
なお最近は結納をせず、両方の家庭が顔合わせをする程度に留めるケースも増えています。その際にかかった交通費や食事代などは婚約破棄の原因になった側に請求することができます。
結婚式・新婚旅行のキャンセル料
結婚式や新婚旅行を申し込んでいた場合は取り消しのキャンセル料がかかります。結婚式の場合はキャンセルが挙式5カ月前~3カ月前の時点で見積金の20%前後にあたる金額をキャンセル料として支払う必要があり決して安い金額ではありません。
このキャンセル費用については、不当な理由で婚約破棄をした側に全額請求をすることができます。
家財道具や住宅の購入費用
新婚生活に向けて住居や家財用品を購入していた場合、その費用についても相手に請求が可能です。住宅や高級家財など値段が高いものについては購入費用と売却価格の差額にあたる部分(譲渡損失)を相手に請求できます。
逸失利益(結婚を機に退社した場合)
結婚をきっかけに退社をしていた場合は退社せずに働いていたら得られたはずの収入(逸失利益)を請求することもできます。ただ逸失利益については状況によって認められないこともあるため注意してください。
養育費(妊娠していた場合)
婚姻前に相手の子を妊娠していた場合、子供を法律上の自分の子だと認めてもらう、すなわち認知をしてもらうことにより養育費を払ってもらう事ができます。
婚約を解消したい・婚約破棄をされた場合はどうする?
ここまで婚約破棄に際してどのような時に慰謝料するのか、婚約破棄が認められる正当な理由について解説をしました。ここからは実際に婚約解消をしたい方、婚約破棄をされた側に向けて具体的な対処法を解説していきます。
婚約を解消したい場合
あなたが婚約を解消したいと思っている場合は、対応によっては慰謝料の支払義務が発生したり、慰謝料を請求される可能性があります。以下のような対応を取り自分の正当性を主張し認めてもらうことが大切です。
- 正当な理由を主張する
- 証拠を集め相手と話し合う
- 合意した内容で合意書を作成
正当な理由を主張する
婚約破棄をされた側は精神的なショックを受け、相手に責任がある(=不当な理由による婚約解消である)と考える可能性があります。もし正当な理由がある場合はそのことを主張し、証拠を集めましょう。
相手に不貞行為があったのであればその事実を裏付ける写真、DVであれば診断書や写真、録音データなどを準備します。
証拠を集め相手と話し合う
婚約解消が正当な理由である場合、その証拠を提示して相手と話し合います。また婚約解消に正当な理由がない場合は慰謝料を支払う義務が発生しますが、それはあくまでも裁判で慰謝料を請求された時のみ。慰謝料を必ず払わなくてはいけないわけではありません。
しかし婚約解消にあたって発生した損害は賠償すべきであり相手に誠心誠意をもって謝罪することが重要です。
合意した内容で合意書を作成
話し合いの結果婚約が解消したとしても、しばらく経ってから慰謝料を請求されるケースは珍しくありません。婚約解消における慰謝料請求の時効は3年であり、その間に考えが変わることは十分にあり得ます。
日数が経過してからのトラブルを防止するため、話し合いで婚約解消が決定した時点で合意書を作成しましょう。以下のことを記した合意書を2通作成し、お互いに署名・押印したものを1通ずつ所持します。
- 婚約解消に同意したこと
- 支払いをする金額・手段
- 婚約指輪や結納品などの扱い
- 清算条項
清算条項とは、合意書で定めた以外の金銭の支払義務がないことを確認する条項のこと。「甲と乙との間には本条項に定めるほか何らの債権債務がないことを確認する」というような文言が使用されます。後で金銭的なトラブルが発生しないよう必ず明記してください。
合意書の形式はインターネットでも紹介されており自分でも作成ができますが、ミスがあると法的な効力が発生しない書面になりますので、できれば行政書士や弁護士に依頼をすることを強くお勧めします。
婚約破棄をされた場合
もしあなたが婚約破棄をされた側の場合は正当な理由かどうかを確認し、もしそうでない場合には慰謝料を請求することも検討してください。また婚約に際し負担した金額、損害額の請求も行います。
正当な理由があるかを確認する
まずは婚約破棄について相手側に正当な理由があるかどうかを確認しましょう。婚約破棄される側の不貞行為や物理的なDVなど、証拠を提示できる理由であれば「正当な理由」と判断が可能ですが、実際には正当な理由なのか自分では判断ができないこともあります。
そのためもし慰謝料請求を視野に入れている場合はこの段階で弁護士に相談し、理由が正当かどうかを判断してもらうようにしてください。
また婚約破棄の後に突然音信不通になり、連絡が取れなくなるという事例もあります。いずれにせよまずは弁護士に相談することを強くお勧めします。
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慰謝料を請求する
相手側に正当な理由がない場合は慰謝料を請求します。婚約指輪や式場のキャンセル料などの損害金もある場合は同時に請求をしてください。慰謝料を請求する際のおおまかな流れは以下の通りです。
- メールもしくは口頭で伝える
- 内容証明郵便を送付する
- 弁護士を通して請求する
- 訴訟を起こす
慰謝料の請求方法に法的な形式はありませんので、自分でメール等を通して請求することもできます。ただ個人からの請求の場合は理由をつけて支払を断ろうとする方が多いのが現状ですので、弁護士を通したほうが無難です。
まとめ
結婚を約束していた間柄でも、何らかの事情によって婚約を解消するというケースは決して珍しくありません。法律においては婚約指輪を購入する、第三者に結婚相手として紹介するなど婚約している事実を第三者に証言できることが婚約の条件です。そして婚約破棄は婚約が成立しているときに一方的に婚約を取り消すことを指します。
婚約破棄に正当な理由がある場合は婚約破棄をされた側、正当な理由がない場合は婚約破棄をした側に慰謝料を請求されるリスクが生じます。慰謝料だけでなく、婚約破棄によって生じた損害についても賠償義務が発生します。
いずれにせよ今後のお互いの生活に向け、真摯に話し合いをすることが一番です。しかし話し合いでも解決ができない場合は離婚問題・慰謝料請求に詳しい弁護士に相談し、力を借りましょう。