- 「政治のことで最近夫婦げんかになる…もう離婚した方がいいのでは?」
- 「価値観の違いで離婚するための方法が知りたい」
政治や信条、信仰する宗教など、いくら夫婦であってもそれぞれの思想が違うということは当然にあります。しかし政治について議論していたのに、いつの間にか言い争いになっていたという人も少なくありません。こちらの記事では夫婦の政治観の違いで離婚できるかについてや、相手と価値観・意見が合わないときの対処法を紹介。
一方で、うめられない程の価値観の違いが浮き彫りになるケースも。もし離婚を考えるようになったときには、価値観の違いで離婚ができるのでしょうか?価値観の違いで離婚するときのポイントや注意点についても解説するので、これからの離婚の参考にしてください。
政治観の違いによる離婚とは
政治観とは政治に対する個人的なものの考え方や見方のことをいいます。では政治観の違いで離婚したいと思うまでに至ることはあるのでしょうか。
最近増えている離婚理由
正式な統計はないものの、政治観の違いは最近増えている離婚理由だと考えられます。X(旧Twitter)などSNSの発達により、日本国内だけでなく世界の政治に関する話題やコメントを気軽に見られるようになりました。そして2024年の兵庫県知事選では、SNSの力によって民意を変えたと言われています。
対面でのコミュニケーションでは政治や宗教の話はタブーとされていますが、ネット上では激しい舌戦が繰り広げられています。するとつい、自分に都合の良いニュースや意見にのめり込んでしまうという人も少なくありません。その一方で以前では知ることができなかった情報が得られ、事の真相にたどり着けたような気持になってしまうという「沼」にはまり込んでしまう場合も。
ネット上の情報を信じている人が夫婦で政治の話になったときに、互いの意見が異なると言い争いの種になることは想像に難くありません。とくにどちらか(両方共)が自分の意見を押し付けるタイプだと、終わらない議論にイライラが募ってしまうでしょう。「どうして相手は自分の言うことに同意してくれないんだ」と不信感を抱く場合も。
政治観が違っていても問題ない夫婦も
一方で夫婦で政治観が違っていても、問題なくやっている夫婦やカップルはたくさんいます。政治観以外の部分で二人のつながりが強固なものであれば、政治観の違いだけで関係が揺るぐ心配はありません。夫婦そろって選挙に行くものの、具体的にどの政党に入れたかや誰の政策を指示しているかといった話をしないケースもあるでしょう。
それぞれの意見が正しいと思っている中で行う政治の話は、夫婦で話し合っていても埒があきません。日常的に政治観を重視し、夫婦で政治の話をたくさんしたいのであれば、違いを受け入れる寛容さも必要になってくるはずです。
政治観の違いとは「価値観の違い」
政治観の違いとは、つまるところ「価値観の違い」です。夫婦といえども育った環境や受けた教育、これまでのコミュニティは異なります。様々な価値観が違っているのはある意味当然ですが、中には政治観のような、離婚問題に発展しやすい価値観の違いもあります。
- 金銭感覚
- 人生観
- 衛生観念
- 家事分担など性別役割への意識の違い
- 子どもの子育てや教育方針の違い
- 仕事とプライベートのバランスのとり方
- 信仰する宗教の違い
- 性的不調和(セックスレスなど)
- 親族との付き合い方
このような価値観の違いがいくつも重なると、結婚生活の維持が難しくなる可能性があります。
価値観の違いで離婚する人の割合
価値観の違いで離婚する人は少なくありません。裁判所が公表している「令和5年司法統計年報3家事編」の中の「婚姻関係事件数-申立ての動機別申立人別」を見ると、離婚調停などを家庭裁判所に申し立てた動機(理由)が分かります。
これによると価値観の違いを含む「性格が合わない」を動機とした申し立ての割合は、夫が9,103件(59.9%)、妻が15,835件(38.0%)となっています。「性的不調和」や「家族親族と折り合いが悪い」という理由も含めると、割合はより高くなります。そしてこの統計には家庭裁判所を経ずに協議離婚した場合や、離婚裁判を申し立てた場合は含まれません。
政治観の違いで離婚できる?
きっかけは政治観の違いに過ぎなかったものが、夫婦関係を修復できないほどに相容れない価値観の違いとなった場合、離婚はできるのでしょうか。
夫婦で合意があれば離婚できる
法的に離婚する方法には、主に「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3種類があります。このうち協議離婚と調停離婚は、話し合いの上夫婦双方の合意に基づいて離婚する方法です。協議離婚は夫婦のみの話し合い、調停離婚は家庭裁判所を介した話し合いという違いはありますが、いずれも離婚理由にかかわらず、夫婦の合意があれば離婚できます。
離婚の仕方や手続き方法について詳しくは、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚の仕方と手続き方法|後悔しないための離婚条件とを切り出す前にすべき離婚準備を徹底解説」
相手が拒否するときには法定離婚事由が必要
相手が離婚を拒否している場合、協議離婚や調停離婚で離婚を成立させることはできません。このようなケースでは、離婚裁判を提起して離婚を認めてもらうという手段が取れます。ただし離婚裁判では、民法第770条に定める離婚理由(法定離婚事由)が必要です。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
引用:民法|e-GOV法令検索
法定離婚事由には、政治観の違いを含む価値観の違いという項目がないため、それだけで離婚が認められる可能性は低いでしょう。
「婚姻を継続し難い重大な事由」として認められる?
政治観の違いで離婚したい場合には、法定離婚事由の5番目「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが問題になります。ここでいう「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがなく継続が難しい状態のことを指します。
しかし価値観の違いだけでは、原則として婚姻を継続し難い重大な事由には該当しないと考えられます。というのも夫婦はあくまで個人同士の結びつきで、価値観が完全に一致しないのは当然だからです。夫婦には価値観の違いを解消するように努力する義務があるとしています。
実際の裁判例でも、性格が全く合わない夫婦に対して、不仲の原因はお互いが相手を理解し合う気持ちが不足していたことにあり、努力しあうことで不仲を改善できる余地があるとして、婚姻を継続し難い重大な事由とは認めなかった事例があります。
離婚原因として認められるケース
一方で、他の事情を含めて「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる場合があります。例えば長期間の別居がこれに該当します。同居期間と比例して相応の別居期間がある場合、もはや婚姻を継続するのは難しいとして、裁判で離婚が認められる可能性も。
また単なる価値観の違いにとどまらず、次のような問題に発展した場合にも、婚姻を継続し難い重大な事由として離婚が認められる可能性があります。
- 金銭問題(浪費・ギャンブル・借金など)
- 性的不調和(セックスレス・性的異常など)
- 宗教上の問題(入信の強要・宗教活動にのめり込み過ぎて家事育児、仕事を放棄するなど)
離婚時に慰謝料は発生する?
政治観の違いで離婚する場合、離婚時に慰謝料は発生するのでしょうか。離婚慰謝料が認められるのは、原則として配偶者の有責行為によって離婚せざるを得なくなり、精神的苦痛を与えられた場合です。有責行為とは婚姻関係を破綻させる恐れのある行為で、不貞行為やDV、モラハラなど配偶者側に責任がある言動のことをいいます。
きっかけが政治観の違いであっても、相手の不貞やDVなどによって離婚を決意した場合には、離婚時に慰謝料を請求できる可能性があります。
協議離婚の慰謝料相場については、こちらの記事を参考にしてください。
「協議離婚の慰謝料相場が知りたい!増額・減額できる秘訣や慰謝料の決め方を解説」
政治観の違いで離婚しないために
政治観の違いで夫婦仲が悪化し、離婚に至らないためには、次のような点に注意した対応を心がけましょう。
互いの意見を述べるにとどまる
夫婦で政治について話をするときには、お互いの意見を述べるにとどまるといいでしょう。一緒にニュースを見ながら国の政策などについて賛成か反対かを言ったりすることもあるでしょう。そのようなときにはあえて一緒の見解を持とうとせず「俺はこう思う」「私はこう思う」「そうなんだね」でおしまいにします。
相手の意見に共感できなくても「そういう考えもあるんだね」と価値観の多様性を認めることが、夫婦関係を悪化させないポイントです。「絶対にこうだ」という視野の狭い考えはやめて、柔軟性をもって価値観の違いを受け入れるといいでしょう。
そもそも政治の話をしない
喧嘩になるくらいなら、そもそも政治の話を夫婦でしないという方法も有効です。政治の話は小難しく、意見が言いにくい話題だと思う人は少なくありません。あなたの配偶者ももしかしたら同じように思っているかもしれないからです。
「仕事で疲れて家にかえって来たときくらい、難しい話はなしでのんびりさせてほしい」と本心では思っているかもしれません。政治の話を振ったときに相手がイライラしていそうと感じたら、家では政治の話を控えた方がいいでしょう。
政治以外のコミュニケーションを増やす
夫婦でコミュニケーションをとるときには、政治の話以外の話題で会話をするのがおすすめ。明治安田生命が行った「いい夫婦の日」アンケート調査の結果によると、夫婦円満に必要なことは「よく会話をする」と回答したのが50.2%とトップです。
そして「円満である」と回答した夫婦の会話時間が休日で270.4分なのに対して、「円満でない」と回答した夫婦では58.8分という差が出ています。このことから夫婦の会話時間が多いほど夫婦仲が円満であることが分かります。
友人や知人に話を聞いてもらう
政治観の違いで夫婦仲が悪くなったときには、友人や知人に話を聞いてもらうといいでしょう。互いのことをよく知っているゆえに、相手のダメなところを責めたくなったり、相手より優位に立ちたいという気持ちが芽生えてしまいます。
そのようなときに信頼して相談できる友人や知人に仲介してもらうことで、夫婦の関係を円滑にできる可能性も。話し合いで問題を解決できない場合でも、第三者を仲介役に立てることで、夫婦間の問題を客観的にとらえられるようになります。
カウンセラーに相談する
価値観の違いによって夫婦関係にヒビが入った場合には、夫婦カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。夫婦問題を専門に扱うカウンセラーなら、冷静な第三者の立場でアドバイスが受けられます。夫婦の問題点がクリアになることで、解決のきっかけが見つかるかもしれません。
夫婦カウンセリングには、1人で受けるものと夫婦二人で受けるものの二種類があります。夫婦そろって受ける方がベストですが、相手の同意が得られそうもないときにはまずは一人でカウンセリングを受けても問題ありません。
夫婦カウンセリングに向かない人や意味あるものにするポイントは、こちらの記事を参考にしてください。
「夫婦カウンセリングは意味ない?カウンセリングに向かない人と意味あるものにするためのポイントとは」
円満調停を利用する
夫婦で話し合いができないような場合には円満調停(夫婦関係調整調停)を申し立てるという方法があります。円満調停とは、文字通り夫婦関係を円満に回復させるために家庭裁判所で行われる法的手続き。離婚を希望していないが夫婦関係が円満でない場合に、調停委員を介して話し合いを行い、関係改善を図ります。
調停では双方の話を聞き、円満でなくなった原因やその原因をどのように努力して直していけば夫婦関係が慶全するかなど、具体的な解決案を提示したり解決のための助言を行います。具体的な調停の手続きについては、裁判所のホームページ「夫婦関係調整調停(円満)」を参考にしてください。
期間限定の別居を試みる
離婚する・しないで揉めたときには、思い切って期間限定の別居をしてみるという方法があります。お互いに冷静になる時間が必要なときに、物理的な距離を置くための別居です。
ここで注意したいのは、安易な気持ちで別居に同意しないこと。相手が求めるまま期限を決めずに別居に同意してしまうと、別居中に離婚の準備を進められてしまう可能性があります。また別居期間が長期間に及んだ場合、それだけで離婚裁判で婚姻関係が破綻していると判断されやすくなります。
冷却期間を置くための別居をするときには、別居の目的や期限を明確にし、ズルズルと別居期間が延びないような対策をしましょう。
別居1年で離婚が認められるかどうかについては、こちらの記事を参考にしてください。
「別居期間1年で離婚できる?長引く・認められないケースと早く離婚するポイント」
政治観の違いで離婚する方法
政治観の違いを含む価値観の違いで離婚する場合には、次のような手順を踏んでいきましょう。
夫婦関係の改善を再度試みる
「もう離婚しかないのでは」と思っていても、再度夫婦関係が改善できないか話し合いを行ってください。とくに離婚によって経済的な安定や精神的な支えを失う恐れがある方は、夫婦関係を改善する余地があるのなら、話し合いによる改善を試みるのも一つの手です。
夫婦だけで話し合うのが難しいときには、夫婦カウンセリングや円満調停を利用してもいいでしょう。離婚を後悔しないためにも、夫婦関係改善の余地がないか検討するチャンスが必要です。
離婚条件について考える
夫婦の話し合いで離婚するときには、同時に離婚条件を取り決める必要があります。離婚条件には、次のようなものがあります。
- 財産分与
- 慰謝料
- 年金分割
- 子どもの親権
- 養育費
- 面会交流
それぞれの項目について、まずは自分が希望する条件を整理しておきます。とはいえすべて自分の希望通りの条件になるとは限りません。離婚するには譲歩が必要となる場面が出てくるので、条件について優先順位を考えておきましょう。
条件について合意が出来たら、取り決めた内容については「離婚協議書」などの書面にまとめてください。養育費や慰謝料の分割払いなど、離婚後も一定期間金銭の支払いが発生するような条件がある場合には、「強制執行認諾文言(強制執行認諾条項)」を入れた公正証書を作成しておくと、相手が支払を履行しなかったときに裁判所の手続きを経ずに強制執行が可能になります。
養育費を勝手に減額できるか知りたい方は、こちらの記事を参考にしましょう。
「養育費を勝手に減額できる?減額請求時のポイント&減額されたときの対処法を解説」
離婚後の生活をシミュレーション
離婚する前には、離婚後の生活を具体的にシミュレーションしておくことが大切です。そのうえで離婚前に様々な準備をするといいでしょう。具体的には次のような準備が必要です。
- 経済的自立の準備(別居費用・離婚後の生活費を算出し、転職や就職を考える)
- 離婚時に請求可能なお金のリストアップ(慰謝料・財産分与・養育費・婚姻費用など)
- 離婚理由を明確にする
- 離婚前後で必要な手続きのリストアップ
- 精神的自立の準備
- 離婚後に住む場所
- 子どもの学校・保育園・幼稚園・習い事
離婚後に配偶者がいなくなったときの経済的・精神的・時間的な影響を検討し、様々な視点から具体的に離婚後の生活をシミュレーションしておきましょう。自分一人だけで生活が回せないようなときには、あらかじめ利用できる公的支援について調査しておいたり、親族や知人の支援が得られないかを交渉する必要があります。
離婚時のやることリストについて知りたい方は、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚時のやることリストを全網羅!タイミングごとの内容と注意点とは?」
離婚を拒否されたときのために証拠を確保する
配偶者に離婚を拒否されたときのために、離婚原因となった相手の言動が分かる証拠を集めることも大切です。相手が離婚を拒否していると離婚の協議がまとまらず、最終的には離婚裁判を提起して離婚を認めてもらう必要があるためです。
離婚裁判では、離婚を請求する側が離婚原因について立証しなければなりません。相手に不貞行為やDVがあったときなどは、それを裏付ける客観的な証拠が必要です。また婚姻関係を修復できない程の価値観の違いを裏付ける証拠や、別居しているときには別居に至る経緯や別居期間が分かる資料が証拠となります。
離婚原因の証拠を集めるのに適したタイミングは、相手に離婚を切り出す前がベストです。相手に離婚を切り出した後や別居後では、証拠を集めるのが難しくなります。これらの証拠は離婚を有利に進める上でも欠かせません。「裁判までは…」という場合でも、できるだけ離婚原因の証拠を集めておくことをおすすめします。
相手に離婚を拒否されたときの対処法は、こちらの記事を参考にしましょう。
「相手に離婚を拒否されたら?拒否する理由とその後の対処方法、やってはいけないNG行為とは?」
弁護士に相談
価値観の違いで離婚を考えたときには、専門家の手を借りるという方法も有益です。とくにすでに離婚を決意している方は、法律の専門家である弁護士に相談し、具体的な離婚手続きなどについてアドバイスを受けるといいでしょう。
とくに価値観の違いで離婚を希望する場合、それだけでは離婚原因として認められないため、離婚を実現するには的確な方針を持って臨む必要が。早い段階で弁護士に依頼することで、スムーズな離婚が可能になります。価値観の違う相手と直接話し合うのは、精神的ストレスです。そういったときでも弁護士を代理人として相手と交渉してもらうことで、精神的な負担を軽減できます。
まとめ
政治観の違いで口論になり夫婦仲が悪くなるケースは、少なくありません。いわゆる価値観の違いに含まれますが、金銭感覚や性的不調和など婚姻関係が破綻してもおかしくない離婚理由もあると、最終的に裁判で離婚が認められます。
政治観の違いで婚姻関係が破綻しないためには、そもそも政治の話をしない、しても意見を言い合うだけにするというコツが必要です。信頼できる友人に仲介してもらったり、夫婦カウンセリングを受けるという方法も。家庭裁判所に円満調停を申し立てて、夫婦関係の改善を図ることも可能です。
もう離婚しかないと決意した方は、離婚条件について考えたり、離婚後の生活をシミュレーションした後で相手に切り出しましょう。早い段階で弁護士に相談し依頼しておくと、相手との交渉や法的手続きを任せられます。より有利な条件でスムーズに離婚するために、法律の専門家である弁護士の力を借りるようにしましょう。