離婚時の財産分与で不動産どうする?【ケース別】財産分与の方法と事前の確認ポイントとは

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  • 「家やマンションなどの不動産は財産分与でどう分ける?」
  • 「離婚後も家に住み続けたいときの財産分与の方法が知りたい」

結婚後に家族で住む家やマンションを購入した方は、離婚時にこれらの不動産を財産分与として清算しなければなりません。現金や預貯金のようにきっちり分けられない不動産の場合、どのように財産分与していったらいいのでしょうか。こちらではケース別で見る不動産の財産分与の方法を解説していきます。

さらに不動産を財産分与する前には、いくつか気にすべきポイントがあります。また不動産を清算する場合の注意点も。離婚後にトラブルにならないよう、不動産をどのように清算したらいいかよく考え、適切な手続きを取っていきましょう。

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目次

離婚時の財産分与と不動産

離婚時に財産分与という手続きがあるのは、多くの人が知っていることです。しかし財産分与には3つの種類があることや、借金などマイナスの財産も対象となるという点については知らない人もいるでしょう。こちらでは財産分与に関する基礎知識と、不動産を財産分与するときのポイントを紹介していきます。

財産分与とは

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を離婚時に公平に分ける手続きをいいます。夫婦が協力して築いた財産「共有財産」といい、結婚後に購入したマイホームなども含まれます。財産分与の内容は、夫婦の話し合いで決められます。しかし話し合いで決着がつかないときには、家庭裁判所調停や審判を申し立てることができます。

離婚で年金はどうなるかについては、こちらの記事を参考にしてください。

「離婚で年金はどうなる?財産分与における年金分割の種類と方法、離婚後に後悔しないポイントとは」

財産分与の種類

財産分与には「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3つの種類があります。それぞれの詳細については、以下の通りです。

清算的財産分与 婚姻期間中に築いた共有財産を、離婚時に清算するという財産分与の中心となる考え方

1/2ずつ分けるのが原則だが、離婚の原因や財産形成の貢献度などによって、調整されることもある

扶養的財産分与 離婚で生活が苦しくなるであろう配偶者に対して行われる財産分与

たとえば妻が専業主婦だった場合には、離婚により収入の道が断たれることになる

そのような場合に離婚後の扶養的側面が配慮されて、一定期間他方配偶者が生活費を負担する方法

慰謝料的財産分与 一方に離婚原因があったときに、他方の精神的苦痛を償うための慰謝料を財産分与の額に含める方法。

実際には清算的財産分与を基準として、慰謝料的財産分与の理由があれば考慮に入れ、さらに清算的財産分与も期間を決めて考慮されるケースがある

一般的に「財産分与」というと、清算的財産分与を指すことがほとんどです。

慰謝料請求をしない方がいいケースについては、こちらの記事を参考にしましょう。

「慰謝料請求しない方がいい? 控えた方がいい11のケースと【離婚理由別】取るべき対策とは」

財産分与の割合

財産分与の割合は、夫婦で1/2ずつが原則です。中には「妻は専業主婦で稼いでいないんだから、財産を半分持って行かれるのは納得できない」と思う方がいるかもしれません。しかし現在の考え方では、夫が仕事に専念できたのは妻が専業主婦として家事や育児を一手に引き受けていたからと判断され、離婚時には収入の多寡にかかわらず半分ずつに分けるのが基本です。

とはいえ、半分ずつ分けるというのは原則的な決まりであり強制ではありません。夫婦が納得しているのであれば、妻にすべての財産を分与しても構いません。

財産分与の対象となる財産・ならない財産

前出の通り、財産分与の対象となる財産は「共有財産」といいます。一方で財産分与の対象とならない財産は「特有財産」と呼ばれます。それぞれの財産の詳細については、以下の通りです。

共有財産 特有財産
婚姻期間中に形成した以下のような財産

  • 現金
  • 預貯金
  • 不動産(土地・建物)
  • 有価証券(株式・債権・投資信託・手形・小切手など)
  • 生命保険などの解約返戻金
  • 自動車
  • 家財道具
  • 骨とう品・貴金属・絵画など
  • 退職金
  • 年金
  • それぞれの親からの贈与や相続を受けたことで得た財産
  • 結婚前から所有している財産
  • 別居後に新たに得た財産

特有財産は、夫婦の一方が結婚前から持っていた財産や別居後に新得した財産を指します。またそれぞれの親からの贈与や相続など、婚姻期間中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産も含みます。

離婚後に宝くじを換金すれば財産分与しなくてもいいか知りたい方は、こちらの記事を参考にしましょう。

「離婚後に宝くじを換金すれば財産分与の対象にならない?気になるポイントと財産分与の注意点とは」

マイナスの財産の取り扱い

財産分与を行うときには、預貯金や不動産などプラスの財産だけでなく、借入やローンなどのマイナスの財産も夫婦共同の債務(借金)として取り扱います。例えば住宅購入のためのローンやマイカーローン、子どもの教育ローンの残債が主なものです。

他にも日常の生活費を決済しているクレジットカードの未決済残高や水道光熱費、婚姻生活維持のためのキャッシングなども離婚時に夫婦でそれぞれ負担します。ただし夫婦のどちらかが浪費やギャンブルなどで個人的に作った借金は、財産分与の対象とはならず自分の責任で返済しなければなりません。

マイナスの財産がある場合の分与の方法は、プラスの財産からマイナスの財産分を差し引いたうえで、残ったプラスの財産を分けることになります。差し引いてもマイナスの財産が残ってしまう場合には、マイナスの財産も夫婦で分けるのが原則です。

不動産を財産分与する場合の確認ポイント

不動産を財産分与するときには、次のようなポイントを事前に確認しておくことをおすすめします。

住宅ローンの名義

不動産を取得するときに住宅ローンを利用した場合には、住宅ローンの名義を確認してください。住宅ローンの名義については、法務局で取得できる「登記事項証明書」の「権利部(乙区)(所有者以外の権利に関する事項)」という「登記の目的」という欄を見て「抵当権設定」とあれば住宅ローンが残っているということになります。

「権利者その他の事項」の「債務者」はローン名義人、「抵当権者」には金融機関名が記載されています。「債務額」は借り入れ当初のローン金額です。

住宅ローンの残高

現在いくらの住宅ローンが残っているかについては、金融機関から届く「ローン返済計画書」や「残高証明書」で確認可能です。固定金利の場合には、借入時にまとめて「償還予定表(返済予定表)」や「ローン返済表」を受け取っているので確認してください。

金融機関によっては、インターネット上で住宅ローンの残高を確認できます。金融機関のホームページからマイページなどに行って、現在の残高を確認してください。繰り上げ返済などして当初の予定よりも残高が少ないケースもあるので、場合によっては残高証明書を取得するなどして、必ず現在のローン残高を確認してください。

不動産の登記名義

不動産を財産分与する場合には、不動産の登記名義を必ず確認してください。登記とは、特定の権利関係(ここでは不動産の名義)などを広く公に示すために公開された帳簿(登記簿)に記載することをいいます。法務局と呼ばれる登記所がその事務手続きを行っていて、不動産登記や会社の登記、成年後見人登記なども法務局で行います。

不動産の登記名義は、「登記事項証明書」の「権利部(甲区)(所有権に関する事項)」で確認可能です。登記事項証明書は、全国どこの法務局からも取得可能で、登記したときの資料(権利書・登記識別情報)からも確認できます。単独名義なら夫婦のどちらかの名前が、共有名義であれば夫婦の両方の名前が記載されています。

不動産の名義は財産分与に影響しない

不動産を財産分与するときに気を付けたいのは、不動産の名義は財産分与に影響しないということ。名義が自分になっているので、離婚後も今の家も自分のものになると思っている人がいるかもしれません。

しかし基本的には、婚姻期間中の不動産の名義と、離婚後の家の所有者には何の関係もありません。不動産の名義が夫婦どちらかの単独名義であっても、夫婦の協議によっては名義人でない方が不動産を取得できるという訳です。また共有名義の場合にはそれぞれの持分割合が決まっていますが、こちらも財産分与の割合には影響しません。

売却手続きは名義人のみが行える

一方で不動産を売却したいというときには、不動産の名義人しか売却手続きを進められません。夫婦の共有名義になっているときには、両者の同意が必要です。いくら夫婦といえ、名義人に内緒で不動産を売却できないので注意しましょう。

住宅ローン債務者と不動産の名義は別物

「住宅ローンの名義が自分なのだから、不動産の名義も自分になっているはず」と思い込んでいる人も少なくありません。しかし住宅ローンの債務者と不動産の名義は必ずしも同じとは限りません。例えば住宅ローンの名義が夫になっている不動産で、名義が夫婦共有名義になっているケースもあります。

離婚後に不動産の名義について話し合うときには、住宅ローンの名義についても協議して決める必要が。例えば離婚後に夫婦のどちらかが不動産を取得して住み続けたいのであれば、住宅ローンも住み続ける側にそろえる必要があります。

不動産の価値(評価額)

不動産を財産分与する場合には、不動産の価値(評価額)も事前に確認しておきましょう。というのも不動産には現金や預貯金のように「いくら」という金額が明確でありません。そのため一旦現金に換算したうえで価値評価する必要があります。不動産の評価額には、次の5つの種類があります。

時価(実勢価格) 市場で実際に取引された不動産の価格を指す

調査するのは各不動産会社で不動産の売買のときに各取引ごとに算出する

公示価格 国土交通省が毎年1月1日に調査し、売買や権利の移転、金融機関の担保評価の指標となる価格
基準地価 各都道府県が一年に一度、1平方メートルあたりの価格を調査したもの

公示価格と同じ用途で使用するものだが、不動産ごとの価格ではない

路線価 国税庁が毎年1月1日に調査する価格で、地価税・相続税・贈与税の算定基準となる
固定資産税評価額 各市区町村の不動産鑑定士が、実際の不動産の劣化状況などを確認し、固定資産評価基準に基づいて評価した価格

固定資産税・都市計画税・不動産取得税・免許登録税など地方税の算定基準となる

財産分与で基準となるのは、実際に売買する時の時価(実勢価格)です。離婚時に不動産をどのように分けるか決めるために、あらかじめいくらで売れそうか不動産会社に査定してもらう方法が一般的。各不動産会社によって金額にバラツキが出るため、査定を依頼するときには必ず2~3社の不動産会社に依頼しましょう。

なお財産分与で重要になるのは「いくらで売れるか」という点で、購入したときの金額は評価額として考慮されません。

財産分与に該当する期間

離婚前に別居期間がある場合には、財産分与に該当する期間についても確認しておきましょう。前出の通り財産分与の対象となるのは、同居を始めた時期から別居時点までです。住宅ローンの残債に関しても、別居時点での金額で判断します。

財産分与の方法

不動産を財産分与するときには、分与の方法を決めなければなりません。不動産の分与方法には大きく分けて、「売却して現金を分ける方法」と「どちらかが住み続けてもう一方に不動産の価値の半分を代償金として渡す方法」の二種類があります。どちらの方法をとるかで、財産分与の手続きが大きく変わります。

離婚後どちらが家に住みたいのか、住み続けたい側が相手に代償金を支払えるかなどを確認したうえで、どのように不動産を財産分与したらいいか検討しましょう。

財産分与について夫婦で合意が出来たら「財産分与契約書」や「離婚協議書」という形で書面に残しましょう。話し合いで合意ができないときには、家庭裁判所で離婚調停を申し立てて、その中で協議をしていきます。調停を経ても合意ができないときには、離婚裁判によって、裁判官に財産分与の方法を決定してもらいます。

なお離婚後の財産分与については、調停で決着がつかない場合に「財産分与審判」という手続きで、財産部世の方法を決定していきます。

不動産を財産分与で分ける4つの方法

不動産を財産分与で分ける方法には、①売却して現金を分ける、②どちらかが住み続けて相手に代償金を支払うという二つの方法が主流です。他にも③共有名義にする、④分筆するという方法もあるので、それぞれの方法の詳細、注意点について解説していきます。

①不動産を売却して現金を分け合う

不動産を財産分与する方法として最も多いのが、この「不動産を売却して現金を分ける」という方法です。この方法なら、夫婦のどちらも代償金を払う資金がなくても問題なく、中途半端に不動産を所有して将来のトラブルを残す心配もありません。

売却するときには不動産会社への仲介手数料や登記費用、その他費用を差し引いて残ったお金を夫婦で分け合えば、きっちり1/2ずつ分配できます。

住宅ローンが残っているケース

不動産を売却して現金を分ける場合、住宅ローンの有無で具体的な分配方法が変わります。そのため、不動産を売却して住宅ローンの残債を完済できるかどうかの確認が必要です。

住宅ローンの残債<売却価格=アンダーローン

住宅ローンの残債>売却価格=オーバーローン

住宅ローンの残債と不動産の売却価格を比較した場合に、売却価格の方が上回っていることを「アンダーローン」ローンの残債の方が大きいことを「オーバーローン」といいます。それぞれの財産分与の方法はこちらです。

◆アンダーローンの場合

アンダーローンの場合、まずは不動産を売却した代金で残りの住宅ローンを返済し、残った残額を分け合えば問題ありません。例えば家が2,000万円で売却できたとして、住宅ローンの残債が1,500万円だった場合には、500万円から売却にかかった諸経費を差し引いた残りを1/2ずつ分配します。

アンダーローンの家を売却する方法としては、仲介と買取の二種類があります。仲介とは不動産会社が買主と売主の橋渡しをする方法。買取とは一旦不動産会社が不動産を買い取って購入者を後から探す方法です。買取の方が若干売却価格が割安となりますが、買い取ってくれる不動産会社を探すだけで済むので、売却するまでの時間がかからないというメリットがあります。

◆オーバーローンの場合

売却価格よりも住宅ローンの残債の方が大きいオーバーローンの場合、手続きは少し複雑になります。というのもオーバーローン状態だと、たとえ不動産を売却したとしても住宅ローンが残るため。住宅ローンが残っているということは、通常は金融機関が設定した抵当権が残ったままということです。

抵当権とは、お金を貸している債権者(ここでは金融機関)が担保となる不動産に設定する権利のことで、ローンを借りている人がローンを払えなくなったときに担保となっている不動産を売却して弁済を受けられるものです。抵当権が残っている状態では、普通は買い手が付きません。

そのためオーバーローンの不動産を売却するには、共有財産である預貯金などを使ってローンを完済しなければなりません。手元の預貯金が不十分でローンを完済できなければ、売りたくても売れない状況になってしまうことも。

オーバーローン状態の不動産を売却するには、ローンを借りた金融機関の同意を得る必要があります。この方法を「任意売却」といいますが、一般的にローンの返済を一定期間滞納してからとなるため、信用情報機関に「延滞」という事故情報が掲載される恐れがあります。

②夫婦のどちらかが不動産を取得して相手に代償金を支払う

夫婦のどちらかが離婚後もその不動産に住み続けたい場合、住み続けたい側の単独名義にする一方で、相手に不動産の価値の半額分を代償金として支払うという方法が取られます。例えば2,000万円の価値があるマンションを妻が取得した場合、代償金として夫に1,000万円支払えば公平に分けることが可能です。

この方法を選択すると、不動産の名義がどちらか一人になるので、将来売却したときの処分方法や部屋を貸したときの管理方法でトラブルになる可能性がなくなります。次にどちらか一方が住み続ける場合での、住宅ローンの取り扱いについて見ていきます。

住宅ローン債務者が住み続ける場合

住宅ローンを借りている人が離婚後も住み続ける場合、契約通りにローン返済を続けていれば特に問題はありません。住宅ローンも不動産名義も同じである場合、財産分与の金銭的な清算が終われば、後は住み続ける人がローンを返済していくだけ。

ただし登記上の名義人でない元配偶者もペアローンなどで返済を負担していた場合には、速やかに金融機関に相談してください。ローンの組み換えなどの手続きが必要になる可能性があるためです。

財産分与で家を売らないで住む方法に関しては、こちらの記事を参考にしてください。

「離婚時の財産分与で家を売らない方法はある?ケース別の方法と注意点、スムーズに分与するポイントとは」

住宅ローン債務者でない方が住み続ける場合

住宅ローンの名義人でない側が住み続けたい場合、何も手続きをしないと住んでない側が返済を負担していくことになります。住んでいる側からすれば、相手がキチンと返済してくれるかが気になります。また万が一ローン返済が滞れば、競売にかけられて家に住み続けられなくなるという心配も。

住宅ローンの名義人でない側が離婚後も住み続けたい場合には、次の二つの方法があります。

◆相手に支払ってもらいながら住み続ける

夫婦で合意が得られれば、相手に引き続きローンを支払ってもらいながら家に住み続けることができます。ただしその場合には、上で少し説明したような滞納による差し押さえというリスクが生じます。このようなトラブルを避けるためには、あらかじめ離婚協議書を作成し公正証書にしておくといいでしょう。

例えばローン名義人が返済を怠ったときには、住み続ける側が一旦返済を負担したうえで、返済額と同額を相手に請求できるという取り決めにしておけば、同額の支払いを後日相手に求められます。

ただしローン名義人が居住するという条件が付いている住宅ローンの場合、相手が出ていくことでローン残債の一括返済を求められる恐れがあります。このようなケースでは、事前に金融機関への確認が必要です。

◆住宅ローンの名義を自分に変更して住み続ける

次に住宅ローンの名義を相手から自分に変更して、住み続けるという方法があります。この方法なら、相手のローン滞納を心配する必要はありません。ただし住宅ローンの名義を変更するためには、金融機関による審査を受ける必要があります。

新しい名義人になるのが妻の場合は、年収や働き方次第で審査に落ちる可能性も。別の金融機関に住宅ローンを借り換えする場合でも、審査に通る必要があるので気を付けましょう。

住宅ローンが残った家に妻が住み続ける方法について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

「住宅ローンが残った家に離婚後も妻が住む方法|ケース別対処法と知っておくべき注意点」

ペアローンの場合

住宅ローンを夫婦でペアローンにしているケースも少なくありません。それぞれが別のローンを契約しているペアローンの場合には、一方のローン返済を他方に引き受けてもらうには新たな審査が必要です。というのも金融機関では二人分の返済能力を評価してペアローンを設定しており、債務者が1人になるとよりリスクが大きくなるため。

一つのローンを夫婦で返済する連帯債務型の場合は契約を変更して単独債務にしてもらう必要があり、こちらもハードルが高めです。

借り換えや一本化の審査が通らない場合、住み続ける側と出ていく側の両方が、契約通りに返済を継続しなければなりません。またペアローンでは、夫婦の両方がそれぞれの連帯保証人になるのが一般的。片方が滞納するともう一方が二人分の返済をしなければならないため、トラブルに発展しやすい点も注意が必要です。

不動産の登記が共有名義の場合

どちらかが住み続けたいというときには、不動産の登記が共有名義になっている場合は、特別なケースを除いて名義の変更が必要となります。というのも離婚後に他人になる二人が、共有名義の不動産を持ち続けるメリットがないためです。

ローンが残っている場合には、ローンの借り換えや組み換えも必要です。住み続けたい側に経済力がないとみなされると、ローンの組み換えができないので注意しましょう。

財産分与で名義変更が必要な財産については、こちらの記事を参考にしましょう。

「離婚時の財産分与で名義変更が必要?必要な財産ごとの手続き方法・必要書類・期限を詳しく解説」

名義変更には金融機関の承諾が必要

そしてローン返済中の不動産の名義を変更するときには、あらかじめ金融機関の承諾が必要となります。ローン名義や連帯保証人の変更の場合も同様です。金融機関に相談して承諾を得たうえで、不動産の名義人変更に応じたローンの借り換えや組み換えをするといった流れになります。

③共有名義にする

不動産を財産分与する方法として、共有名義にするという方法があります。共有名義とは、不動産の持分(もちぶん)を複数の人が持っている状態をいいます。不動産は単純に1/2ずつ分けるということが難しいですが、複数の人が共有するということはできます。

この方法だと夫婦のどちらかが代償金を支払う財産がなくても問題ありません。またとくに面倒な手続きが不要で、法務局でそれぞれの名義で登記すれば手続きは完了です。一方で不動産を共有名義にすると、次のようなデメリットが生じます。

  • 売却するには相手の承諾が必要になる
  • 勝手に賃貸に出せなくなる、家賃収入を分配しなければならなくなる
  • 家を増改築したいときに相手の承諾がいる
  • 相手が管理費や固定資産税などを分担してくれないと、負担が1人に集中する

不動産を共有名義にすると、何かあるたびに相手と連絡を取る必要があり、離婚後も元配偶者との関係が続いてしまいます。そのため離婚時には家の名義を夫婦のどちらかにしてしまう方が、トラブルが少ないといえます。

新築を建てたけど離婚を考えているという方は、こちらの記事を参考にしましょう。

「新築を建てたけど離婚したい!新築離婚の原因や選択肢・注意点を知って最善の選択を」

④分筆する

不動産が土地だけの場合、分筆して物理的に半分ずつに分けるという方法があります。文筆とは一つの土地を、複数に分割して新しく地番を付与する手続きのこと。登記簿上の土地を分割する手続きで、土地を分けるときの単位を「1筆」「2筆」と呼ぶことから分筆といいます。

ただし土地の大きさや形状によっては、分筆すると一つずつの土地が狭くなったり、形が悪くなったりするデメリットが。結果的に元々の土地の価格の半額よりも、価値が下がってしまう恐れがあります。その土地を自分で利用する予定もなく、売るに売れない土地になってしまったら、せっかく自分のものになっても意味がありません。また分筆するためには、登録免許税や境界確定測量費用など分筆費用として50万~100万円前後かかります。

不動産を財産分与するときのポイント・注意点

不動産を財産分与するときには、次のようなポイントや注意点に気を付けましょう。

不動産売却には名義人の立ち合いが必要

不動産を売却する方法で財産分与するときには、売却時に登記名義人の立ち合いが必要です。単独名義であれば、売買契約に立ち会うのは名義人一人だけですが、共有名義の場合には基本的に夫婦二人が立ち会わなければなりません。離婚による不動産売却であっても、基本的には通常の不動産売却と同じ手続きが必要です。

離婚後に元配偶者と顔を合わせたくないというときには、「代理権委任状」を作成して代理人を立てて売買契約することも可能です。代理人の選任にはとくに条件や法的な決まりはありませんが、基本的には信頼のおける親族や弁護士、司法書士などの専門家から選ぶことをおすすめします。

財産分与を依頼する弁護士費用については、こちらの記事を参考にしてください。

「財産分与に関する弁護士費用|内訳別相場や変動する要素、安くする秘訣を解説」

財産分与の請求期限は2年

財産分与には離婚成立から2年という請求期限があります。2年を過ぎてしまうと、いくら財産分与の対象となる共有財産があっても、請求ができなくなるので注意してください。ただしこれは請求までの期限であって、離婚後2年以内に財産分与の手続きが終わっていなければならないということではありません。

住宅ローンの連帯保証人になっている場合

ペアローンを組んでいるなどして、住宅ローンの連帯保証人になっている場合には、何も手続きしない限りは離婚しても連帯保証人としての責任は続きます。万が一相手が返済を滞らせたときには、自分に返済するように請求が来てしまいます。

後のトラブルを防ぐには住宅ローンの契約を確認して、自分が連帯保証人になっているときには連帯保証を外すように金融機関に相談することも必要です。しかし住宅ローンを契約した条件の一つとして連帯保証が含まれるため、必ずしも認められるわけではありません。

自分以外の人に連帯保証人を代わってもらうという方法がありますが、住宅ローンの残債や新しく設定した連帯保証人の返済能力次第では、保証人の変更が認められない場合があるので気を付けましょう。

不動産の財産分与でかかる税金

不動産を財産分与するときには、仲介手数料や登記費用だけでなく、次のような税金が発生する可能性があります。あらかじめ税金の金額を把握して、資金がいくら必要になるのか計算しておきましょう。

税金の種類 区分 税率 控除・軽減税率など
登録免許税 売買による所有権の移転登記 (土地・建物とも)固定資産評価額の2.0% 令和8年3月3日まで軽減税率1.5%が適用
譲渡所得税 共有持ち分を相手に譲る場合 長期譲渡所得(所得税:15% 住民税:5%)

短期譲渡所得(所得税:30% 住民税9%)

マイホームの場合は3,000万円の特別控除が受けられる
贈与税 税金逃れのための離婚とみなされた場合

財産分与の額が明らかに偏っていると判断された場合

基礎控除後の価格によって異なる(一般税率)

  • 300万円以下:15%
  • 400万円以下:20%
  • 600万円以下:30%
  • 1,000万円以下:40%
  • 1,500万円以下:45%
  • 3,000万円以下:50%
  • 3,000万円超:55%
基礎控除は年間110万円まで
不動産取得税 贈与税が課税されると不動産取得税も発生する可能性がある 不動産の評価額×4% 新築住宅の場合、評価額から1200万円を控除

住宅用地の場合、①150万円×税率②土地1㎡当たりの価格×住宅床面積の2倍×税率の高い方を土地の税額から軽減

離婚に伴って相手に財産分与を行った場合には、譲渡所得税が課される可能性があります。実際にお金のやり取りが発生していなくても、分与のタイミングの時価で不動産を譲渡したとみなされるため。ただし配偶者を含む親族に譲渡した場合は、3,000万円の特別控除が受けられません。控除を受けるには離婚後に財産分与を行ってください。

財産分与では原則として贈与税が発生しませんが、税金逃れのための離婚や分与される金額が明らかに多すぎると判断された場合には贈与税が課される可能性も。贈与税が課されると不動産取得税も発生する可能性があるので注意しましょう。また不動産を取得した後は、毎年固定資産税を支払っていかなければなりません。

財産分与でかかる税金について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

「財産分与でかかる税金について|種類別・ケース別の税金計算方法や節税対策とは?」

住宅ローン減税は譲渡できない

住宅ローンを利用して不動産を取得した場合、借入額に応じて新築住宅で13年、中古住宅で10年間の所得税控除を受けられます。いわゆる「住宅ローン減税」といわれるものですが、住宅ローン減税は配偶者や親族に対する譲渡に関しては認められていません。

取得した不動産について住宅ローン減税を受けるためには、離婚が成立してから不動産の譲渡を行わなければなりません。不動産の譲渡を受けた次の年の申告期間に確定申告を行うことで、翌年以降の住宅ローン減税が受けられます。離婚後に不動産を取得したときには、忘れずに確定申告を行ってください。

不動産を売却するタイミングによって変わるメリット・デメリット

不動産を売却するタイミングが離婚前か離婚後かによって、それぞれメリットとデメリットが変わります。いつ不動産を売却したらいいか迷っているという方は参考にしましょう。

売却してからの離婚

不動産を売却した後で離婚する場合、売却代金を1/2ずつ分割する形で財産分与を行えるので、比較的スムーズに進められるというメリットがあります。

一方で売主が現れないと売却までに時間がかかり、離婚手続きを予定通りに進められないというデメリットが生じます。また離婚前に財産分与を行うと、贈与とみなされて贈与税が課される可能性も。離婚前に不動産を売らなければならないというケースでは、デメリットを受け入れたうえで売却してください。

離婚後に売却

離婚後に不動産を売却して財産分与を行う方法は、離婚に伴う引っ越しや氏名変更に伴う各種手続きなど、離婚に関する様々な手続きを終えてから売却活動を始められるので、落ち着いて手続きを進められるというメリットがあります。

一方で売却活動が年をまたいでしまうと、売却した年1年分の固定資産税の支払い義務が生じます。また売却活動が終わるまでは、元配偶者とのやり取りが必要な場合も。このようなデメリットがあることを理解して、売却活動を行うようにしましょう。

離婚に伴う手続き方法については、こちらの記事を参考にしましょう。

「離婚の仕方と手続き方法|後悔しないための離婚条件とを切り出す前にすべき離婚準備を徹底解説」

まとめ

離婚後に不動産をどうするかについては、売却して等分に分ける方法と、どちらかが住み続けてもう一方に代償金を支払うという方法の二つがあります。売却する場合にはオーバーローンかアンダーローンかによって、財産分与の方法が変わります。

どちらかが住み続けて代償金を支払う方法では、住宅ローンの名義や不動産の登記名義がどうなっているか、それぞれの名義を変更するかどうかで必要な手続きが変わってきます。住宅ローンや不動産の名義を変更するときには、事前に金融機関に相談したうえで慎重に行ってください。

不動産を財産分与する場面では、様々な税金がかかります。一方で離婚前に相手名義に変更すると、住宅ローン減税を受けられない可能性があるので注意しましょう。共有名義の不動産を売却するには、夫婦2人の立ち合いが必要に。相手と顔を合わせたくないなどの理由があるときには、弁護士といった専門家に代理人を依頼してください。

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