- 「未払いの退職金が財産分与の対象になるって本当?」
- 「配偶者から将来の退職金の財産分与を求められ、納得がいかない」
離婚する際には、夫婦が協力して築いた財産を分割する財産分与ができます。夫婦のいずれかが企業に勤務している場合、退職金が財産分与の対象になるのか気になる方もいるでしょう。
今回は退職金が財産分与の対象になるケースや算出方法、相手に請求する方法にについて解説します。また配偶者から退職金を財産分与するよう求められた方に向け、正しい対処方法も紹介していますのでぜひ参考にしてください。
退職金は財産分与の対象になる
財産分与とは、離婚の時に夫婦共通の財産を分け合うことです。対象となるのは婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産ですので、財産の名義は関係ありません。退職金は給与の後払い的な性質を持つとされます。そのため退職金は他の財産と同様財産分与の対象になります。
財産分与の対象になる期間
財産分与の対象となる財産はあくまでも同居期間中に夫婦が築いたものに限ります。つまり退職金の場合、退職金が支払われる会社で働いていた期間と同居期間が重なる部分に応じた金額が財産分与の対象です。
結婚する前に働いていた期間、別居中や離婚後に働く期間に発生する退職金は財産分与の対象にはなりません。
また退職金は必ず財産分与の対象になるというわけではありません。状況によっては財産分与の対象にならない場合もあります。退職金を受け取っている場合、まだ受け取っていない場合の2パターンに分けて詳しく解説をしていきます。
退職金を既に受け取っている場合
会社から退職金が既に支払われている場合は手元に退職金が残っているかどうかで対応が異なります。
退職金が残っていれば財産分与の対象になる
退職金が手元に残っている場合、同居期間に応じた分を財産分与として受け取れます。勤務期間のうち配偶者が貢献した期間を算出し、退職金の金額からその分の割合を受け取ることになります。もし退職金を使っていた場合は残っている分だけが財産分与の対象となります。
ただ退職金を銀行口座に預けていた場合、時間の経過によって退職金の金額分が分からなくなることがあります。その結果退職金が貯金の残高としてみなされ、全額が財産分与の対象になることがあります。
貯金残高は全額が財産分与の対象ですが、退職金はあくまでも同居期間に応じた分だけが対象です。明細などで退職金がいくら分なのかを明らかにした上で財産分与を行う必要があります。
退職金が残っていないと財産分与は不可能
退職金を使ってしまい残っていない場合、ないものは分けられないため財産分与の対象にはなりません。
退職から長い年数が経過している場合、退職金が残っていないのはやむを得ないかもしれません。しかし退職後間もないにも関わらず退職金が残っていない、というケースは大変不公平であり納得がいかないでしょう。
相手の浪費が原因で退職金がなくなった場合、他の財産分与を増やす等で対応してもらえる可能性があります。また退職金を元手に不動産や株を購入した場合、退職金が形を変えて財産として残っていると解釈できるため退職金にあたる分を財産分与の対象として考えることができます。
退職金をまだ受け取っていない場合
退職金が会社からまだ支払われていない場合でも退職金を財産分与の対象にできることがあります。ただ本来ならば存在しないお金を分けることはできないため、あくまでも「確実に退職金が支払われる」と言える場合に限られます。
確実に退職金が支払われるかどうかは以下の状況を踏まえ総合的に判断します。それぞれの項目について詳しく解説をしていきます。
- 勤務先の規定の有無、勤務先の安定性
- 退職金支給時期
- これまでの勤続状況
勤務先の規定の有無、勤務先の安定性
退職金制度は全ての会社にあるわけではありません。そのためまずは退職金制度の有無や計算方法を雇用契約書や就業規則を確認しなくてはいけません。計算方法について明文化されているのであれば、それに基づいた金額を財産分与に含めることができます。
例えば公務員であれば退職金の支給規定が明白なため、財産分与ができる見込みがあると言えます。また上場企業の大半も会社の就業規則が明文化されているため、財産分与を請求できる可能性が高いです。
逆に退職金の規定がない会社は退職金が支給される確実性が薄いため、退職金を財産分与に含めることは難しいです。ただし退職金の規定がない場合でも、退職する予定が近く退職金の支給が決まっている場合は退職金を財産分与の対象にできるケースもあります。
これまでの勤務状況
何年勤続すれば退職金を受け取れるかは、法律で基準が定まっているわけではありません。しかし退職金制度のある企業の場合3年~5年以上の勤務で退職金が受け取れるようになる企業が大半です。
今まで短期間での転職を繰り返している場合は退職金が支払われる見込みが低いと判断される可能性が。
定年退職までの期間
上記二つの条件を満たしていたとしても定年退職があまりに先である場合は退職金の受給が確かとは言えないため、財産分与の対象にはできません。一般的には退職までの期間が10年を超えた場合、退職金を財産分与の対象にしない事例が大半です。
財産分与で受け取れる退職金の算出方法
ここからは退職金の算出方法を解説していきます。計算式は退職金を既に受け取っている場合、そうでない場合とで異なります。
退職金を既に受け取っている場合
既に退職金を受け取っている場合の計算式は、以下の通りです。
退職金額×(同居期間÷勤務期間)÷2
勤務していた期間のうち配偶者が本人の生活に貢献していた期間、すなわち同居期間にあたる割合を算出し、その半分を受け取る計算です。
退職金をまだ受け取っていない場合
退職する予定がないとしても退職金を受け取る時期が極端に先ではない場合、将来の退職金も財産分与の対象になります。まだ受け取っていない退職金を財産分与する方法は以下の3通りです。
- 離婚時に分与する
- 将来退職金を受給した時に分与する
- 他の財産の分与と一緒に調整する
離婚時に分与する
離婚時における退職金相当額を計算する方法で、確実に退職金を財産分与できる点がメリットです。しかし計算上受け取る金額が低くなること、相手の資力がない場合は充分な額を受け取れない可能性がある点がデメリットです。算式は以下の通りです。
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退職金相当額×(同居期間÷勤務期間)÷2
この退職金相当額の計算方法には以下の2つがあります。
- 離婚時に自己都合退職した場合の退職金を計算する
- 将来の受給額から中間利息を引いた額を計算する
中間利息とは
中間利息とは将来受け取るはずだったお金を前倒しで受け取った場合、そのお金で発生する利益のことを指します。中間利息を引くことで、将来受け取るお金を現在の価値に置き換えることが可能です。
中間利息の計算方法は様々ですが、民法で定められている法的年率3%に基づいた方法を紹介します。例えば定年退職時の退職金が2000万円、定年退職までの年数が3年だった場合、1年ごとに利率3%が加算されると考え、離婚時の退職金相当額を以下のような計算式で算出できます。
2,000万円÷1.03÷1.03÷1.03=1,830万円
退職までの期間1年ごとに除算回数が1回増えますので、財産分与の対象額は低くなっていきます。これ以外には交通事故の賠償額を計算する際に使用されるライプニッツ係数を使用する方法もありますが、これも退職までの期間が長いほど金額が減っていく計算です。
将来退職金を受給した時に分与する
退職し実際に退職金が支払われてから財産分与を行う方法です。計算方法は、退職金を既に受け取っている場合と同じです。実際に支給された退職金をもとに計算ができるため、公正さを保てます。また相手側に金銭的な負担がかからない点もメリットです。
デメリットは相手が退職するまで待たなくてはいけない点です。離婚後は相手と連絡を取りたくないという方には向きません。相手が途中で解雇される、勤務先が倒産するなどの理由により、退職金が支払われない可能性もゼロではありません。
また万が一相手が退職前に亡くなった場合、死亡退職金は遺族に直接支払われるため、財産分与の対象にはできなくなります。
他の財産の分与と一緒に調整する
退職金そのもは財産分与の対象にせず、その代わり不動産や預貯金など他の財産を多めに分与してもらう方法です。退職までの期間が長い場合、退職金の計算ができない場合はこの方法が向いています。
離婚時に退職金の財産分与を受け取る方法
ここからは退職金の財産分与を受ける具体的な手順を解説します。これから離婚を考えている方、もしくは離婚協議中の方でまだ退職金の財産分与を行っていない方は参考にしてください。
離婚条件として提示する
退職金の財産分与は離婚時の条件の一つとして、他の財産分与や養育費と一緒に請求することが一般的です。
まずは夫婦間で話し合いを行い、同意に至らない場合は家庭裁判所で調停委員を間に挟んで話し合いを行う離婚調停を行います。離婚調停で具体的な条件が決められない場合、家庭裁判所に申立てを行い離婚裁判を行うという流れです。
離婚調停、離婚裁判の流れや手続きについては以下の記事で詳しくまとめていますので、流れを知りたい方は併せてお読みください。
離婚前・離婚後の手続きの流れを解説!離婚の条件や種類別の期間、注意点とは
離婚は決まっていても財産分与の意見がまとまらない場合は家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てます。調停不成立になった場合は自動的に審判手続が開始され、裁判官の判断で財産分与について決められます。
離婚裁判は必ず調停を挟む必要があるのに対し、財産分与請求では調停を省略し審判の申立てを行うことが可能です。
相手に退職金の資料開示を行う
退職金を財産分与の対象にするためには退職金の有無や金額、計算方法が明確でないといけませんので相手に確認が必要です。しかし相手が離婚に反対している場合などは退職金の財産分与に消極的になり、なかなか情報を開示してくれない場合があります。
相手本人に退職金のことを確認しても進展がない場合、家庭裁判所に対し民事訴訟法186条に基づく調査嘱託手続きを申し立てることができます。家庭裁判所が相手の勤務先に直接連絡をとり、退職金の回答を求める手続きを取ります。
離婚後でも2年以内であれば請求可能
財産分与の請求ができるのは正式に離婚が成立してから2年以内です。離婚後に退職金の財産分与をしていないことに気づいた場合でも、財産分与請求の手続きを踏むことで相手に退職金の分与を求めることが可能です。
ただこれはあくまでも家庭裁判所を通した請求についての規定です。当事者同士の同意があれば2年を経過した後でも財産分与が受けられます。
なお既に財産分与を受ける協議が成立していた場合は支払期限から5年、裁判所の調停や判決で権利が決まっている場合は支払期限から10年が時効となります。
あらかじめ退職金の仮差押えを行う
先に解説をしたとおり、退職金が既に使われていた場合は財産分与ができません。相手に資力がある場合は退職金が使われた後でも相当額を受け取れますが、退職金を浪費された上他に財産がない場合は請求が難しいでしょう。
退職金の使いこみを防ぐ手段として仮差押えがあります。仮差押えとは一時的に相手の財産を差し押さえ、動かせないようにする手続きのことです。
仮差押えの手順
仮差押えをするには対象となる財産が明確である必要があるため、退職金の額がはっきりしていることが前提です。そのため退職金に関する資料を揃えた上で裁判所に申し立てを行います。
退職金を仮差押えするためには「仮差押えが必要である」ということを裁判所に判断してもらわなくてはいけません。財産分与の協議が終わるまでに相手が退職金を使う恐れがあることを説明し納得してもらう必要があります。
仮差押え命令には担保金が必要
裁判所が仮差押え命令を下すためには担保金が必要です。なぜなら、仮差押えはあくまでも暫定的な手続きにすぎず相手に損害を与える恐れがあり、万が一仮差押えによって損害が発生した場合は賠償を行う必要があるためです。
担保金額は基準が明示されているわけではありませんが、現金や預金などの動産の場合は金額の10%~30%程度が目安です。裁判所から指定された担保金を法務所に供託し、そこで受け取った供託書正本を裁判所に提示することで仮差押えが実行されます。
最終的に担保金は返還されますが、離婚訴訟に発展した場合は判決が出るまで返還されないため返還までに1年以上かかる事例もある点に留意してください。
配偶者から退職金の財産分与を求められたら
ここまでは退職金の財産分与を求める手順を中心に解説を行いました。しかしこの記事をお読みの方の中には、退職金の財産分与を求められており、有益な情報を探している方もいるはずです。最後に配偶者から退職金の財産分与を求められた場合の対処法について解説を行います。
30~40代であれば直接の清算対象にはならない
配偶者が30~40代であるにも関わらず退職金を分与するよう求めるケースは実際にあります。しかしあなたが現在30~40代の場合、今の会社に定年まで働き続けるかどうかは非常に不確定です。
退職までの期間が10年を超えている場合は退職金は算出せずに財産分与を行うことが一般的ですので、無理に応じる必要はありません。
また未払いの退職金を財産分与の対象にした場合、手元にないものを相手に支払わなくてはいけないため、あなたの経済的負担が非常に大きくなります。もし夫婦間に子どもがいて養育費を支払う場合は財産分与が原因で養育費の支払いが滞る可能性も否定できません。
退職まで期間がある場合、退職金を直接財産分与の対象にするのではなく、他の財産や支払を考慮した上で交渉を進めたほうがお互いの未来のためになると言えます。
退職金の資料開示を請求されたら応じたほうがよい
退職金を財産分与の対象にするためには退職金の具体的な金額や条件、算出方法が不可欠ですので、配偶者から退職金に関する資料を開示するよう求められるはずです。相手から資料開示を請求されたら応じるようにしてください。
「退職金を分与したくない」という気持ちから相手の請求に応じずにいると家庭裁判所から勤務先にあなたの退職金の情報を開示するよう照会が入ります。家庭裁判所から企業に連絡が入るケースはそう多くはありませんので、社内で良くない噂が広まる恐れがあります。
計算方法に注意し正しい額を算出する
退職金を計算する場合は必ず正しい金額を算出するようにしましょう。退職金は受給金額を純粋に半分にするわけではありません。あくまでも勤務期間に対する相手の生活への貢献期間(=同居期間)だけが財産分与の対象になります。
また離婚時に退職金を計算する場合は自己都合退職した場合の金額で算出することも忘れないようにしてください。自己都合で退職をした場合の退職金は、定年退職の退職金の6割~7割程度です。間違えると相手に渡す金額が大きく異なってしまうためくれぐれも注意してください。
まとめ
退職金は財産分与の対象になります。しかしまだ支払われていない退職金分の財産分与に関しては、財産分与の対象になるかどうかは状況によって異なります。財産分与の対象であると主張しても配偶者が納得しない例もあり離婚時に問題になりやすい事柄の一つでもあります。
自分が退職金を財産分与として受け取れるかどうか、逆に支払わなくてはいけないのか気になる方、既に相手と話し合いを始めているにも関わらずなかなか解決しない方は離婚問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。
お金の問題は解決しにくい傾向がありますが、新しい生活を歩むために妥協はできない事柄です。専門家の意見を仰ぎ、納得のできる解決を目指しましょう。