- 「『審判離婚』という言葉を見かけた。裁判離婚との違いは?」
- 「離婚調停中だが、裁判に持ち越したくない。実際に審判離婚になる条件を知りたい」
話し合いで離婚が成立しなかった場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、それで話し合いがまとまらない場合は離婚裁判になるという流れが一般的です。しかし家庭裁判所で行われる離婚手続きには審判離婚というものがあるのをご存知ですか。
審判離婚が行われる割合は、令和2年の厚生労働省による「離婚に関する統計」でわずか1.2%と低く、非常に珍しいケースと言えます。この記事では審判離婚の概要や実際の流れ、メリットやデメリットを解説します。これから離婚調停を考えている方、審判離婚について気になる方はぜひ参考にしてください。
離婚が成立する方法と手順
審判離婚とは離婚調停を経た結果、裁判所が「離婚したほうがよい」という審判をして成立する離婚のことをいいます。審判離婚までの過程や意義を理解するために、まずは離婚が成立する方法や手順を確認していきましょう。
協議離婚
協議離婚とは裁判所を利用せず夫婦間で話し合いを行った上で離婚することを指します。離婚の理由を問わず、お互いに同意し離婚届を市役所に提出すればこの協議離婚に該当します。
冒頭で触れた「離婚に関する統計」によると、夫婦の離婚のうち約90%はこの協議離婚であり、最も簡単かつ一般的な離婚の方法と言えます。
調停離婚
協議でなかなか離婚が成立しない場合や夫婦だけでは協議が難しい場合は、夫婦の一方が夫婦関係調整調停、いわゆる離婚調停を家庭裁判所に申し立てます。調停期日は月に1回ほどのペースで何回か開かれます。
調停員が夫と妻それぞれから話を聞き、お互いに顔を合わせることなく意見を交換し合います。離婚するか否かだけでなく、子どもの親権や養育費、財産分与についての話し合いも一緒に行えます。調停によって成立する離婚を調停離婚と呼びます。
離婚調停の具体的な流れを知りたい方は以下の記事を併せてお読みください。離婚調停の期間に焦点を当てた記事ですが、離婚調停についての詳しい内容や流れをまとめています。
離婚調停の期間を短く有利にするには?長引く原因や疑問を解決して新たな一歩を
裁判離婚
離婚調停で離婚について夫婦双方とも合意できなかった場合は家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判の場で離婚を成立させる手続きを行います。裁判で離婚することを裁判離婚と呼びます。
離婚裁判で離婚を認めてもらうためには、離婚がやむを得ないと法律で認めてもらうための法的離婚事由が必要です。以下の法的離婚事由のいずれかに該当していなければ、離婚判決は得られません。
- 不貞行為があった
- 扶助義務を果たさないなど、悪意の遺棄があった
- 3年以上生死不明である
- 回復の見込みがない強度の精神病である
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある
裁判離婚にかかる期間は平均1年~2年程度です。また相手が離婚に同意しないことを理由にいきなり裁判を申し立てることはできず、先に調停の手続きを踏む必要があります。これを調停前置主義と呼びます。
裁判離婚について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
離婚裁判の期間を手続きの流れごとに解説!長引くケース・期間を短縮する秘訣とは?
審判離婚
ここまで解説をした通り、離婚までの流れは以下のように進むのが一般的です。
調停が不成立になった場合は離婚裁判へ移行しますが、離婚調停の段階でお互い離婚にほぼ合意しているにも関わらず、他の事情で調停が不成立になるケースがあります。
そして裁判を行わず離婚するのが適切であると裁判官が判断した場合、裁判官の審判によって離婚が成立します。これを審判離婚と呼びます。
審判離婚が成立する具体例
審判離婚に移行する具体的な例は、以下のようなケースです。いずれも離婚すること自体には合意していることが前提で、他の事情で調停が不成立になる場合に審判離婚に移行します。
- 財産分与などの条件で同意に至らない
- 当事者の一方が病気等で調停に出席できない
- 片方がわざと調停を引き延ばしている
- 何らかの理由で早く結論を出すべきだと判断された
財産分与などの条件で同意に至らない
離婚には同意しているものの財産分与などの条件でわずかに対立し、離婚が成立しないケースです。このまま調停不成立になった場合、他の合意ができている部分についても再度裁判で決め直さなくてはいけません。訴訟で争うほど意見が対立していないとみなされた場合、審判離婚になりやすいです。
当事者の一方が調停に出席できない
夫婦いずれかが遠方に住んでいる、もしくは病気などを理由に調停に出席できないケースです。
家庭裁判所における裁判は、当事者の同意があればテレビ会議システムでも参加可能です。しかし離婚調停は極めて重要な事柄のため、原則として本人の出席を求められます。それにも関わらずやむを得ない事情で調停に出席ができず、かつ離婚意思が強い場合は審判離婚の形を取ることがあります。
ただ近年はコロナ禍の影響により、家庭裁判所によっては離婚調停もテレビ会議形式で行うことがあります。テレビ会議で調停に臨める場合は、遠方であることを理由に審判離婚には至りません。
片方がわざと調停を引き延ばしている
離婚調停において離婚に同意をしたものの、調停の終盤になり「やはり相手の思い通りにさせたくない」等という反発心が生まれ、わざと話し合いを拗れさせようとしたり、調停に出頭しなくなったりするケースです。
このように相手の感情的な反発が原因で調停が成立しない場合、第三者による審判であれば相手も素直に受け入れる可能性があると考え、問題解決のために審判離婚へ移行することがあります。
何らかの理由で早く結論を出すべきだと判断された
夫婦いずれかが外国人で自国に戻らなくてはいけない場合、子どもの親権を早く決めたほうがよい状況にある場合など早く離婚を成立させたほうがよいと判断された時も審判離婚が利用されることがあります。
審判離婚の流れ
では実際に審判離婚になる際の流れを、順を追って詳しく解説していきます。審判に不服があった場合、審判離婚が成立した場合の手続きの流れについても紹介します。
調停を申し立てる
審判離婚は離婚調停より先に行うことができますが、当事者から希望して申し立てることはできません。裁判所に「審判離婚にしてほしい」と伝えることは可能ですが、本人同士の話し合いである離婚調停が優先されるケースが大半です。そのためまずは夫婦いずれかが離婚調停を提起するところから始まります。
話し合いでおおよそ合意する
離婚調停から審判離婚になるには、離婚にお互い同意しており、離婚に関する話し合いがおおよそまとまっていることが条件です。
夫婦いずれかが離婚に反対している場合、最初から片方が調停に出席しない等の理由で話し合い自体ができない場合は審判離婚にはなりません。調停の後に離婚裁判を申し立てることになります。
調停成立前に何らかの問題が起きる
調停が成立しそうな段階になり、突然夫婦の片方が調停に来なくなる、財産分与の些細な金額の違いなどで揉めるなどの問題が発生し調停成立が難しい状態になります。
裁判官が審判を行う
調停が不成立になると本来であれば離婚裁判の申立てを行います。しかし今までの調停の流れや調停不成立の理由、調停委員の意見を考慮した上で裁判官が「ここで離婚を成立させたほうがよい」と判断した時は、裁判官の権限で離婚を認めます。これを「調停に代わる審判」と呼びます。
不服の場合異議申し立てを行う
審判には裁判の確定判決と同じ法的効力があります。しかし当事者のどちらか一方が異議申し立てをすることにより、審判は無効になります。異議申し立てができる期間は、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内です。
異議申し立てをするには、異議申立書に日時や氏名・審判の事件番号など必要事項を記載し、審判書の謄本と一緒に家庭裁判所に提出します。異議申立書には理由を書く欄がありますが、空白でも差し支えありません。
郵送で申立を行う場合は審判書の受け取り日から2週間以内に家庭裁判所に書類が到着しなくてはいけませんので、早めに手続きを行いましょう。
審判確定後に離婚届を提出
審判書の受け取りから2週間経過しても当事者双方から異議申し立てがない場合、審判が確定します。ただし審判の確定だけでは戸籍に離婚は反映されません。必要な書類を準備し、審判が確定した日から10日以内に役所に提出しましょう。離婚日は審判が確定した日になります。
役所に提出する書類
審判離婚にあたり役所に提出が必要な書類は以下の通りです。手続きをする人本人の本籍地、もしくは所在地の市区町村役場に届出を行ってください。
- 離婚届
- 審判書謄本
- 審判確定証明書
- 戸籍謄本
離婚届
審判離婚の場合、提出者本人の署名と押印が必要ですが相手方の署名押印はなくても差し支えありません。また協議離婚では証人2人の署名が必要ですが、審判離婚では証人は不要です。
審判書謄本
審判書とは、家庭裁判所で下された審判の内容を明記した書類です。審判書謄本は裁判所に申請をすることで交付を受けられます。
審判確定証明書
審判確定証明書は審判書の内容が確定していることを証明する通知です。審判確定証明書には審判の内容が具体的に記されていないため、離婚手続きに際しては必ず審判書謄本と一緒に提出を行います。裁判所への交付の申請も審判書謄本と同時に行えます。
戸籍謄本
審判離婚に限らず、本籍地以外の市区町村で離婚届を提出する場合は本籍地が発行した戸籍謄本が必要です。戸籍謄本の有効期限は法律等では定められていないため、本籍地が遠方の方は少し早めに取得しておくとよいでしょう。
審判離婚のメリット・デメリット
審判離婚で離婚が決定すれば裁判に移行することなく離婚手続きを終わらせられますので、早く離婚したいという方にとって審判離婚は非常に有効な手続きと言えるでしょう。しかし審判離婚には短所もあります。メリットとデメリット、それぞれを詳しく確認していきましょう。
メリット
審判離婚のメリットは以下の二つです。
- 早く離婚ができる
- 審判は判決と同じ法的効力がある
調停不成立になった場合は離婚裁判の申し立てを行うか、再度話し合いをすることになります。離婚裁判に移行した場合は離婚成立までに数年かかることも。しかし審判離婚により時間をかけずに離婚手続きができるようになります。
また裁判所による審判には、離婚裁判の確定判決と同じ効力があります。万が一養育費の支払が滞った等の金銭的トラブルがあった場合、法的効力のもと相手の給与を差し押さえる等の手続きに踏み切ることも可能です。
デメリット
上記のように有効なメリットがあるにも関わらず審判離婚が一般的でないのは、以下のようなデメリットが理由であると考えられます。
- 利用されるケースが限定的である
- 自分が望まない結果になることがある
- 異議申し立てにより無効になる
先にお伝えしている通り審判離婚が利用されるケースは極めて限定的です。離婚調停においてお互いに離婚に同意しており、かつ裁判官が離婚したほうがよいと判断した場合でのみ適用されますので、当事者が審判離婚を希望しても受け入れられるわけではありません。
また審判離婚はあくまでも裁判官の判断が基準となるため必ずしも自分が望む結果になるとは限りません。そして自分に有利な結果になったとしても相手が異議申し立てをすることで容易に審判は無効になります。そのため制度として有効であるとは断言できないのが現状です。
調停離婚を弁護士に依頼するメリット
審判離婚は原則として自分から申し立てることはできません。審判離婚を視野に入れているのであれば、まず離婚調停を申し立てる必要があります。離婚調停を申し立てる際は、離婚問題に詳しい弁護士に依頼することをお勧めします。離婚調停を弁護士に依頼するメリットについて詳しく解説をしていきます。
調停が有利な結果になりやすい
離婚調停を弁護士に依頼することにより、調停を有利に進めるための注意点、証拠や主張を助言してもらえます。
また弁護士は調停期日に同席することも可能です。調停の場で相手の主張の誤りや矛盾を指摘するだけでなく、依頼者の考えを調停委員の共感が得られるように伝え依頼者に有利になるようサポートしてくれます。
審判内容が妥当か判断できる
自分だけで審判離婚に臨んでいた場合、審判の結果が自分に有利なのかそうでないのか判断ができません。内容に納得ができない場合、異議を申し立てるべきか迷う方もいるでしょう。
審判内容が他の離婚事例と比較して妥当なものかどうかは、専門家でないと判断ができません。調停の段階で弁護士に依頼をしておくことにより審判内容が妥当なのかどうか、異議を申し立てるべきかの助言を受けられます。
異議申し立て後の離婚訴訟を依頼できる
審判内容が納得できない場合、裁判所に異議申し立てを行い、その後離婚訴訟へと移ります。離婚訴訟は準備する書類の種類が多く、労力と時間がかかります。弁護士に依頼をすることで手続きを代行してもらうことが可能です。
まとめ
審判離婚は極めて稀な離婚手続きです。裁判所が条件を職権で決定するため手続きが早く済むことは長所ですが、必ずしも自分に有利な審判が下されるとは限りません。
納得ができない場合は2週間以内に異議申立てを行わなければならず、判断に迷っている間に日数が過ぎてしまうというケースもあり得ます。
できるだけ自分に有利な条件で離婚したいと考えている方は離婚調停の段階から弁護士へ依頼をすることをお勧めします。もし審判離婚に移行した場合でも、あなたに最適な選択ができるよう心強くサポートしてくれるはずです。