- 「毎日育児が大変なのに、頼りない夫を見てイライラしてしまう」
- 「パートナーのせいで育児ノイローゼ気味。離婚や慰謝料請求はできる?」
育児ノイローゼとは育児が原因で気持ちが不安定になり、イライラしたり無気力になったりすることを指します。子供はかわいいですが、なかなか寝てくれない・泣き止まないなどの理由で育児中は辛くなってしまうもの。精神的に追い込まれノイローゼ状態になってしまうことは珍しいことではありません。
その結果配偶者との関係がうまくいかなくなり、離婚を考える方もいるのではないでしょうか。果たして育児ノイローゼを理由にして離婚はできるのでしょうか?この記事では法的な観点から離婚や慰謝料請求の可否について解説をしています。離婚するか迷っている方に向けて今の状況を打破するための対処法もまとめましたのでぜひ参考にしてください。
育児ノイローゼは離婚原因になる?
育児ノイローゼになった原因がパートナーにあった場合、離婚を視野に入れる方もいるはずです。離婚には相手の同意が必要であるため、まずは夫婦間での話し合いの上離婚を決める協議離婚が行われます。
相手が離婚に反対し協議離婚ができなかった場合、家庭裁判所で離婚裁判を行い法律で離婚を認めてもらうことになります。しかし育児ノイローゼを理由に離婚したいと訴えてもそれだけで離婚を認めてもらうことは難しく、慰謝料の請求ができない可能性も高いです。
育児ノイローゼは直接の離婚原因にはならない
相手が離婚に同意しない場合でも民法で定められている法的離婚事由があれば裁判の判決で離婚することができます。法的離婚事由は具体的には以下の5つのいずれか。
- 不貞行為があった
- 悪意の遺棄があった(生活費を渡さない、働かないなど)
- 行方不明になり3年以上生死が分からない
- 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない
- その他婚姻関係が続けられない重大な理由がある
育児ノイローゼは直接的な法的離婚事由には該当しません。ただし育児ノイローゼのせいで別居生活が続いているなど夫婦生活が破綻していることが証明できれば、上記5つ目の「婚姻関係が続けられない重大な理由」と認められ離婚ができる可能性はあります。
また4つ目の「強度の精神病」にも育児ノイローゼは含まれないと考えてください。実際に精神病が原因で離婚が認められた判例は、統合失調症により夫婦生活そのものが困難になったケースが大半であり、ノイローゼや依存症などの精神疾患のみでは離婚原因になりません。
育児ノイローゼというだけでは慰謝料は請求できない
離婚における慰謝料は、配偶者の不倫やDVなどによる肉体的・精神的苦痛に対し損害賠償として請求ができるものです。慰謝料を請求できるケースは以下のような状況です。
- DV・モラハラ
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
3つ目の「悪意の遺棄」については先述の法的離婚事由でも挙げられている言葉ですが悪意をもって(わざと)夫婦の共同生活を破綻させる行動のことを指しています。悪意の遺棄に該当する行動として、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 生活費を入れない
- 家を出たまま帰ってこない
- 健康な夫が働かない
- 専業主婦(夫)が家事をしない
- 性行為の拒否
- 性交不能
上記から分かるように育児ノイローゼは悪意の遺棄に直接は含まれていませんので、単に育児ノイローゼになったことを理由に慰謝料を払ってもらうことは難しいと言えます。ただ育児ノイローゼが原因で相手がDVや不倫をするようになった等、ノイローゼの結果として他の法的離婚事由に該当するようになった場合は慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料の相場や金額の決め方については以下の記事で詳しくまとめていますので、慰謝料請求を考えたい方は併せてお読みください。
協議離婚の慰謝料相場が知りたい!増額・減額できる秘訣や慰謝料の決め方を解説
育児ノイローゼで離婚したくなる理由
育児によって引き起こされる育児ノイローゼと離婚は一見関係がないように感じるかもしれませんが、実は育児ノイローゼと夫婦関係は密接な関係にあります。なぜ育児によって離婚に至るのか、実際に見られる事例を元に順を追って紹介していきます。
妻は赤ちゃん中心の生活になる
赤ちゃんが産まれると母親は育児中心の生活になります。生後まもない赤ちゃんは授乳やおむつ替えを頻繁にしなくてはならず、睡眠も途切れ途切れ。母親は産後で体調が万全でもないにも関わらず心身ともに育児で精一杯になり、家事や夫のことなど他の事に気を遣えなくなります。
夫には大きな変化がないためすれ違いが生じる
夫は妻の出産後もこれまで通り仕事を続けます。近年では妻の出産に併せて男性が育休を取るケースも増えつつありますが、令和3年度の男性の育休取得率はわずか13.97%。育児は妻が主体で行っていく家庭が大半でしょう。
(参考:厚生労働省|育児・介護休業法の改正について)
夫が育児を行うのは帰宅後や休日のみであり、妻のように生活リズムが変わるわけではありません。そのため夫は産後の妻の大変さを理解しにくく、それによって夫婦のすれ違いが生じていきます。
妻が夫に不満を抱くようになる
新生児の育児中は十分に睡眠がとれず、自分だけの時間も取れませんのでストレスが溜まっていく一方です。そのような状況で夫が前と同じように過ごしているのを見て「夫ばかり自由に過ごしてずるい」「父親の自覚がない」というマイナスの気持ちを抱くようになり余計にイライラを募らせていきます。
夫が息苦しさを感じるようになる
やがて妻は夫にイライラをぶつけるようになっていきます。一方夫はそのような妻を見て息苦しさを感じるように。会社で一生懸命働いているにも関わらず自宅にはイライラした妻がいるため、帰宅が憂鬱になってしまう人も。
離婚を考えるようになる
妻は夫に対し「気が利かない」「気持ちを分かってくれない」という負の感情を抱き続け、やがて夫と一緒に居ても意味がないと思うように。夫側も自分にイライラをぶつける妻と一緒にいたくないと思うようになり、互いに離婚を考えるようになっていくのです。
育児ノイローゼで離婚するとどうなる?離婚後の生活の現実
育児ノイローゼはその名称の通り、あくまでも育児中だけのもの。育児ノイローゼに陥ったとしても子の成長により状況は改善していきます。
しかし精神的に追い詰められている状態ではなかなか未来に目を向けられないもの。その一時の感情で離婚を決めてしまい、時間が経ってから後悔するケースも実際にあります。実際に離婚するとどのような状況に陥りどのような後悔を抱くのかについて、今回は主に妻側の事例を紹介していきます。
金銭的に苦しくなる
離婚をすると夫の収入に頼れなくなり金銭的に苦しくなります。子育てはお金がかかるものです。子供が小さいうちは然程気にならないかもしれませんが、子供が大きくなると食費や学費などで出費がかさむようになっていきます。
離婚をすると夫から養育費を受け取れますが、夫婦の収入を合算した金額には到底届きません。子供が希望する習い事をさせてあげられない、私立の学校に入れられないなど金銭的な事情が子供の人生に影響を与えるようになった時、離婚しなければよかったと後悔するかもしれません。
仕事と育児の両立ができない
離婚後は自分が働いてお金を稼いでいくことになりますが、小さい子供がいるうちは育児と仕事の両立は非常に困難です。家事と仕事を全て一人でこなさなくてはならず、夫がいればよかったと感じることもあるかもしれません。
また出産を機に退職した方は新たに仕事を探さなくてはいけません。しかし小さい子がいる女性の場合は子供の体調不良を理由に早退や欠勤をしなくてはいけない時があるため、就職自体も厳しいのが現状です。子供が体調不良になった時に自分の親などを頼れればよいのですが、そうでない場合は仕事探しの段階で苦労する可能性があります。
父親がいないことを周囲に聞かれる
昔に比べると離婚する方は増えていますが、それでも多くの家庭が夫婦共に育児をしています。そのため父親について自分や子供にたずねてくる人もいるでしょう。自分が聞かれる分には問題がなかったとしても子供が父親について聞かれて戸惑う姿を見ると辛く感じるはずです。
育児ノイローゼを乗り越えて離婚を回避するには
育児ノイローゼに陥っている間は精神的にも大変不安定ですので、離婚を決断すると時間が経って後悔する可能性があります。では離婚をぜず育児ノイローゼを乗り切るにはどうすればよいのでしょうか?具体的な解決策を紹介します。
夫に手伝ってほしいことを伝える
育児もしくは家事をしているとき、夫に対して「気がきかない」「察してほしい」等と思ったことはないでしょうか。気配りができる夫であれば問題はありませんが、実際には夫も自分のことで精一杯です。そして夫にとっても始めての育児、何を手伝っていいのか分からない可能性もあります。
相手に直接お願いをするのは恥ずかしいと思うかもしれませんが、言わないままでいると現状は変わりません。思い切って手伝ってほしいことを素直に口に出してみてください。夫側も何を手伝えばよいのかを理解し、あなたの力になってくれるはずです。
夫に完璧を求めない
夫が家事や育児を手伝ってくれるものの、どうしてもダメな部分が気になりイライラしたという経験はありませんか。
完璧を求めると毎日イライラするだけでなく、夫側も「自分がやらないほうがいい」と感じ、夫婦間の距離が開いていくことになります。家事や育児の質ではなく協力してくれる気持ちそのものに感謝することで心が楽になっていくはずです。
夫に感謝の気持ちを伝える
近年は夫が育児や家事を手伝うことが当たり前になりつつあります。しかし手伝ってもらって当然という気持ちでいるのではなく相手に感謝する心を忘れず、その気持ちを伝えるようにしてください。そうすることで夫もより協力的になってくれるはずです。
辛いときは第三者に頼る
育児ノイローゼに陥り毎日が辛いとき、夫婦仲が悪化し改善が難しいときには第三者の力を借りることをお勧めします。
育児ノイローゼに陥り毎日が辛いとき
「育児ノイローゼ」は正式な病名ではありませんが精神科・心療内科で受けられる精神療法(カウンセリングなど)によって症状が改善する可能性があります。病院にかかるのは抵抗があるという方は支援センターなどで相談をするだけでも気が楽になるはずです。
支援センターは知ってはいるものの外出するのが辛い、という方はネットやSNSの力を借りましょう。あなたのように育児に悩んでいる人がたくさんいるはずであり、愚痴を言うだけでも心が晴れるはずです。子育て支援のオンライン相談もお勧めです。
夫婦仲が悪化し改善が難しいとき
夫婦仲の悪化に悩んでいる場合はお互いの家族や友人、夫婦カウンセラーなどの専門家への相談をお勧めします。悩みを一人で抱え込んでいると気持ちがどんどんマイナスの方向へ向かう恐れがあります。誰かに悩みを打ち明けることで解決の糸口が掴めるかもしれません。
子育てを乗り越えた後のことを考えよう
育児ノイローゼにはいつか必ず終わりが来ます。今は夫に対してイライラすることもあるかもしれませんが、今を乗り越えれば「夫がいてよかった」と思える時が来るはずです。繰り返しになりますが、育児ノイローゼ状態に陥っている際に安易に離婚を選択すべきではありません。
この先子供の成長をあなたと一緒に喜べるのは子供の父親である夫であり、成長した子供の接し方に困ったときに一番頼りになるのも夫です。育児で辛い日々が続いていると、未来の話をされても「今の辛さをどうにかしてほしい」と思うでしょう。しかしそのような状況だからこそ未来に目を向けるようにしてください。
育児ノイローゼで離婚を検討したほうが良いケース
育児ノイローゼが原因で離婚をするのはやめたほうがよい、ということは既に何度がお伝えしている通りです。しかし状況によっては離婚をしたほうがよいケースもあります。以下のいずれかに該当する場合は離婚を検討したほうがよいかもしれません。
- 夫が浮気している
- 親の自覚が芽生えない
- DV・モラハラがある
夫が浮気している
浮気は配偶者への裏切り行為です。ましてや妻が育児に奮闘している時期に他の女性と浮気をするような男性は、父親として相応しくないと言わざるを得ません。
不倫の証拠はないものの不審な行動がみられる場合、夫の行動を確かめたいものの子供が小さくて動けない場合は探偵の浮気調査を利用、もしくは離婚問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。
相手の不倫が疑わしい時の対処法、実際に慰謝料を請求する手順については以下の記事で詳しくまとめています。
浮気と不倫の違いはある?法律上の不貞行為の定義や「不倫しているかも」と思ったときの対処法
親の自覚が芽生えない
妊娠期間・出産を経て母親になる女性と比較すると、男性は親になった自覚が芽生えにくい傾向があります。自分の子供と接し、育児を手伝っていくことで親としての自覚が芽生えていきます。
しかし自分の夫になかなか親の自覚が芽生えない場合、今後の人生においても夫が原因で苦労する可能性が。親の自覚が持てない夫の特徴としては以下のようなケースが当てはまります。
- 大変なことを全て妻任せにする
- 時間やお金を自分の事だけに使う
- 優先順位の付け方がおかしい
大変なことを全て妻任せにする
夫が育児を手伝ってくれるものの子供の機嫌が良い時だけしか手伝わず、子供が泣いた時や寝付かない時などには「あとはよろしく」「俺には無理」と言って妻任せにするケースです。
育児に参加してくれることはありがたいのですが育児には辛い面もあります。そのような負の側面から目をそらす夫は、子供の成長後も自分の都合のよい時にしか子供と向き合ってくれない恐れがあります。
時間やお金を自分の事だけに使う
仕事が忙しくなかなか育児や家事を手伝えない父親は「休日は子供と過ごそう」「休日だけでも育児を手伝おう」と考えるはずです。しかし父親の自覚が生まれない男性は、休日はギャンブルをしたり友達と遊んだりなど自分のために時間やお金を使います。このような状態では夫婦で協力して子育てができるはずがありません。
優先順位の付け方がおかしい
どれほど育児が辛いと思っていても子供は大切な宝物であり、子供に何かあれば何よりも優先するはずです。しかし親の自覚が芽生えない夫は子供を優先せず、友人や自分の実家など他の事柄を優先することがあります。
具体的な例としては「子供が熱を出しているにも関わらず友達との約束を優先する」というような行動が挙げられます。そのような夫は万が一の時に頼りにならず、子供にも影響が及ぶ恐れもあります。
DVがある
妻が育児ノイローゼに陥ると家庭内の雰囲気が悪くなり、夫が不機嫌になることもあるでしょう。しかしどのような状況下でも妻にDV(家庭内暴力)を行ってくる夫は大変危険です。一度暴力を振るった人は、後でどんなに謝ってきたとしてもまた暴力を振るう可能性が高く、いずれそれが子供に向けられるかもしれません。
今DVに悩んでいる方、DVによる離婚を検討している方は以下の記事も併せてお読みください。
DV夫と離婚したい…早く安全に離婚するための手順・相談先・気になるポイントを徹底解説
まとめ
夫の振る舞いが原因で育児ノイローゼになった場合、それだけを理由にして離婚をすることは難しく、慰謝料の請求もできません。しかし育児ノイローゼの結果相手の不倫や別居、DVなどがあった場合はそれを理由に離婚ができる可能性があります。
妻が育児で大変な時であるにも関わらず不倫やDVをする夫とは離婚を検討すべきです。しかしそうでない場合は今の気持ちだけで離婚を決断することは避けたほうがよいでしょう。子の父親はあなたの夫一人だけであること、そしてこれから先一緒に子供の成長を喜べる人であることを忘れないでください。
子供は少しずつ成長し手がかかならくなっていきますが、そうと分かっていても辛い時はあるでしょう。精神的に行き詰った時や夫婦仲が改善できないときはカウンセラーや家族などに頼り、決して一人でふさぎ込まないようにしてください。