子供がいる夫婦が離婚をする際には、離婚後に一緒に暮らさない方の親と会う面会交流について取り決めを行います。しかし可能であれば元配偶者と子供を会わせたくない、と考えている方は少なくありません。また子ども自身が面会を嫌がることもあります。
面会交流権は子のために行われるものですので、親の意向で拒否できることではありません。しかし状況によっては面会交流を拒否できるケースもあります。
今回は面会交流を拒否することの違法性、面会交流を拒否したらどうなるのかについて解説。また面会交流を拒否できる要件や面会を巡りトラブルになった際の対処法も紹介していますのでぜひ参考にしてください。
面会交流権とは何か
面会交流権とは離婚して子供と離れて過ごす親(非監護親)と子供が交流をする権利のことを指し、かつては面接交渉権と呼ばれていました。夫婦間に子供があった場合、離婚したとしても親子関係がなくなるわけではありません。そのため親子が離れて暮らしている場合でも面会をして関わり合う権利があるとされます。
なお実際に面会する以外にも手紙や電話、メールなどのやりとり、プレゼントの受け渡しなどを行うこともあります。
面会交流は法律で認められている
離婚後の面会交流は民法766条において以下のように明文化されています。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。引用元:e-Gov法令検索 民法
あくまでも子の利益を最優先して面会が定められるということです。そのため親の「子を相手と会わせたくない」といった感情で面会交流の有無は決められません。
面会交流の決められ方
面会交流の方法や回数については夫婦が離婚する際に話し合って決めることが一般的です。離婚協議書を作成する際に面会交流の条件も一緒に記すこともあります。
もし離婚の際に面会交流について決められなかった場合、家庭裁判所で面会交流調停を申し立てることも可能です。離婚調停と同様に2名の調停委員が参加し、本人同士は直接対面せずに話し合いが行われます。片方の希望を無視して一方的に決められるということはありません。
面会交流について取り決める事項は以下のような内容です。子がある程度の年齢に達している場合、子供の希望も尊重して決められます。
- 面会交流の頻度
- 面会交流の時間や場所
- 元夫婦の連絡方法
- 都合が悪い時の対応
- 学校行事へ参加するかどうか
- 宿泊・旅行は可能かどうか
- 祖父母との面会をどうするか
- 交通費の負担はどうするか(遠方の場合)
面会の頻度や場所、時間だけでなく、約束の日に都合が悪いときは日程をどうするかなど、細かな内容まであらかじめ決定します。入学式や運動会などのイベントへの参加について決めることもあります。
面会交流や親権について決めるタイミング、注意点は以下のページでもまとめています。離婚前後の手続きについてまとめていますので、これから離婚手続きに入るという方は併せてお読みください。
離婚前・離婚後の手続きの流れを解説!離婚の条件や種類別の期間、注意点とは
面会交流を拒否するリスク
離婚時に面会交流について定めたにも関わらず、それを拒否したくなる理由は人によって様々です。しかし面会交流を拒否すると状況によっては親権者変更にまで発展する恐れがありますので、安易に判断するのは避けましょう。
ではまず面会交流を拒否することのリスク、拒否した際にはどのような起こり得るのかを解説します。
履行勧告が行われる
離婚調停の際に定められた面会交流を拒否した場合、家庭裁判所から履行勧告を受けます。履行勧告とは取り決めた約束を守る(履行する)よう電話や書面で勧告を受けることです。
履行勧告に法的な強制力はありませんが、無視を続けていると間接強制へ移る可能性があります。
間接強制により金銭を要求される
間接強制とは取り決めた約束を守らない場合に制裁金を払うよう命じられることです。制裁金の金額は3万~10万円程度が目安ですが、連れ去りを伴う場合、悪質だとみなされた場合は高額になるケースも。
制裁金は面会交流に従わないたびに課されていきます。制裁金が増えることによる経済的かつ精神的な圧迫を与え、面会交流を履行させることが目的です。制裁金を支払わない場合は給与や財産の差し押さえを受ける場合があります。
慰謝料を請求される
元配偶者が子供に会えないことを精神的苦痛とし、慰謝料の支払を求める場合があります。面会をしないこと自体への制裁である間接強制とは違い、慰謝料はあくまでも精神的苦痛に対する賠償金です。
そのため慰謝料を請求するにはある程度の違法性、強い理由が必要であり、面会を拒絶したからといって必ず慰謝料が発生するとは限りません。以下のような場合には慰謝料が認められる可能性が高いです。
- 面会交流が具体的に決まっているにも関わらず応じない
- 長年面会交流を拒絶し続けている
- 面会を妨害するために嘘をついている
- 面会交流の理由が不当である
面会交流が定められているにも関わらず応じる素振りをみせない、長い間面会をさせない場合は精神的苦痛が大きくなるため慰謝料が発生します。また面会を妨害するために嘘をつくことは悪質な行為とみなされ、慰謝料が高額になる可能性も。
親権者変更申立をされる
面会交流を正当な理由なしに拒否し続けた場合、このことを理由に親権変更の申し立てが行われる可能性があります。
面会交流の拒絶だけを理由に親権が変更されることはありませんが、他に親権者としてふさわしくないと判断できる理由があった場合にのみ変更が受け入れられる可能性があります。
そのため面会交流を拒否することで親権が変更されるケースは稀です。しかし元配偶者との関係が悪化しトラブルに繋がる可能性はゼロでないことから、正当な理由なしに面会交流を避けることはやめたほうが良いでしょう。
面会を拒否できる例・できない例
面会交流は離婚後の親子関係を保つための制度であり、子にとって必要なものとされていますので、原則として拒否はできません。ただ元配偶者が子を虐待していた等子にとって悪い影響を及ぼすことが明白である場合は拒否できます。では具体的にどのようなケースで拒否できるのでしょうか。面会を拒否できない具体的な例と併せて解説していきます。
面会交流を拒否できないケース
面会交流を拒否できない具体的な例は、以下の通りです。
- 相手が養育費を払わない
- 子を新しい環境に馴染ませたい
- 相手が急に面会を求めてきた
- 相手が別の人と交際している
- 相手の父母に会わせたくない
- 子どもが拒否している
相手が養育費を払わない
養育費の取り決めをしたにも関わらず支払を怠る非監護親は決して少なくありません。そこで子供のための決まりを守らない元配偶者を子に会わせたくない、と主張する方も多いです。
しかし養育費は面会交流と引き換えで行うものではなく、互いに独立したものです。そのため養育費の支払がなくても面会交流は行わなくてはいけません。
子を新しい環境に馴染ませたい
離婚は子の生活環境を大きく変化させます。転校を伴ったり、遠くへ引っ越したりすることもあるでしょう。新しい環境にようやく慣れてきたところを元配偶者と会うことでかき乱されたくないと考える方もいます。
またあなたが再婚して新しい配偶者と一緒に過ごすことになった場合、新しい父親(母親)と子供との関係を構築するために以前の父親(母親)とは会わせたくないと考えるかもしれません。しかし子の環境が変わったとしても、非監護親が子の父(母)であることは変わりません。そのため以上のことは面会交流を拒否する理由にはなりません。
相手が急に面会を求めてきた
離婚した後相手がずっと面会を拒否する、もしくは面会を一切申し入れしないままで何年も経過するケースもあります。何年も会っていないにも関わらず突然面会の申し入れがあると「自分勝手だ」「何か企んでいるのでは」等と考え、面会を避けたいと考える方もいるでしょう。
しかし面会交流権は年月の経過で消滅することはありません。長年会っていないことを理由に拒否はできないため注意してください。
相手が別の人と交際している
離婚の原因が相手の不倫だった場合「相手が悪いのに面会を実施するのは納得いかない」と思うことは当然のことです。また相手が新しいパートナーと交際もしくは再婚して一緒に住んでいる場合、子への影響が心配で会わせたくないと考えるかもしれません。
しかし相手の不倫や交際は、面会を行う親と子との繋がりとは一切関係がありません。そのため相手の交際を理由に面会を拒否することは認められません。
相手の父母に会わせたくない
相手との面会交流には応じるものの、子供にとっての祖父母にあたる相手の父母には会わせたくない、というケースもあります。しかし面会交流に際して特に条件を定めていない場合非監護親が子供との面会交流中にどこで誰と会うかは自由です。相手の父母がいるという理由だけでは面会交流は拒否できません。
相手の父母と会わせたくない場合、「子を元夫(妻)の実家に連れて行かない」「祖父母と面会交流をさせない」といった内容を取り決めることは可能です。相手と話し合い、条件を決め直しましょう。相手方の父母が「孫に会わせろ」と強く要求してきて困る…という事例もよくありますが、そもそも祖父母には面会交流権がないため、応じなくても違法にはなりません。
子どもが拒否している
面会交流は子どものためにあるものですので、子供本人が嫌がっている、もしくは「会わなくていい」と言っていれば拒否できると考えがちです。しかし面会交流の実施は子供の意見だけで決められるものではありません。
子供と同居している親が面会交流を嫌だと思っている場合、子供が親に遠慮し「会いたくない」と言うケースは珍しくありません。表面上は会う事を嫌がっていても、実際に会うと楽しんでいることも。ただ極端に子が面会交流を嫌がっている場合、家庭裁判所の調査官が調査した上で面会の拒否を認める可能性もあります。
面会交流を拒否できるケース
上記で解説をした通り「面会交流を拒否したい」と考えても、実際には拒否が認められないケースが大半であることが分かります。では逆にどのような状況であれば面会を拒否できるのでしょうか。具体的に解説をしていきます。
- 相手が子を連れ去る可能性がある
- 相手が過去に子を虐待していた
- 無理な条件を押し付けてくる
- 子どもに危険行為や犯罪行為をさせる恐れがある
- 面会交流の協議中である
- 一定以上の年齢の子が拒否している
相手が子を連れ去る可能性がある
子の連れ去りとは、夫婦の一方が相手の同意なく一方的に子を連れ去る行為のこと。子の親権を決める際、裁判所はこれまで養育した人が引き続き養育することが好ましいとみなします。そのため親権獲得を有利にする目的で、離婚前に子を連れ去り養育しようとする人がいます。
大人の都合で子を連れ去ることは、子供の生活に大きな変化をもたらすため避けるべきです。元配偶者が離婚前に連れ去りを行おうとしていた場合は面会交流で再度連れ去りを試みる恐れがあるため、面会交流を拒否できます。ただ第三者が同行することで連れ去りを防止できるのであれば、面会交流そのものを拒否することは難しい可能性もあります。
相手が過去に子を虐待していた
非監護親が離婚前に子を虐待していた場合、面会交流の実施が子供の健全な成長を妨げる恐れがあります。そのため相手が子に虐待を行う場合は面会交流を拒否できます。
妻(夫)へのDVは拒絶理由にならないことも
原則として面会交流は子の健全な成長を最優先に実施されます。そのためもしあなたが元配偶者からDVやモラハラを受けていたとしても子供に影響がないとみなされれば面会交流を行うこともあります。
ただDVを理由に住所を隠している場合は面会交流によって現在の居所が知られる恐れが。またDV保護法に基づいた保護命令が相手に出されている場合は被害者との接触自体ができないため、面会交流の拒否が認められます。
また子供に直接危害がなかったとしても過去に子供がDVを目撃して相手に恐怖心を抱いている場合、精神面への影響を考慮し拒否が認められる可能性があります。
無理な条件を押し付けてくる
学校や幼稚園に通っているにも関わらず毎日の面会を要求してきたり、遠方に住んでいるのに頻繁な面会を求めたりなど相手が面会交流について無理な条件を提示する場合は面会を拒否できます。
面会交流は子供の健全な発育を目的としたものです。子供の生活に負担がかかる条件での面会はできません。
子どもに危険行為や犯罪行為をさせる恐れがある
相手が素行不良であり子供に犯罪行為や危険行為をさせる恐れがある場合、子供への悪影響が大きいことを理由に面会交流を拒否できます。
ただし拒否が認められるケースは「子供と心中しようとした」「窃盗などに加担させた」など理由が具体的である場合に限ります。「相手が信用できない」「精神的に不安定である」といった、子供への影響があいまいな場合は拒否は認められません。
面会交流の協議中である
現在相手と面会交流について話し合いをしている場合、もしくは調停の最中であり結論が出ていない場合は面会交流の具体的な条件が決まるまでは面会を実施しなくても違法になりません。
一定以上の年齢の子が拒否している
子どもの年齢によっては子ども本人の意見が尊重されます。子供が15歳以上の場合、面会にあたっては子供の意見を確認するよう家事事件手続法で定められているため、本人が拒絶すれば面会拒否が認められるようになります。
(陳述の聴取)
第百五十二条
2 家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判を除く。)をする場合には、第六十八条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。
ただ先述の通り、子供が幼い場合は本人が「会いたくない」と言っていても面会交流は拒否できない場合がほとんどです。ただ10歳程度になると自分の気持ちを的確に言語化できるようになることから、子供の意見が尊重されることもあります。
面会交流で問題が生じたら弁護士に相談を
相手が面会の際に約束を守らないなどのトラブルに見舞われた場合や、何らかの理由で面会交流を拒絶したい場合は弁護士に相談することをお勧めします。
離婚した相手と子供との面会交流は余程の事情がない限り行うべきものとされるため、面会交流を拒絶できるケースは限定的です。しかし会う頻度や場所などの条件を見直すことは可能です。そのような場合も弁護士への相談がお勧めです。面会交流についてのトラブルを弁護士へ相談・依頼することのメリットは以下の通り。
- お互い冷静に取り決めができる
- 不利な条件を断ることができる
- 証書を作成しトラブルに備えられる
- 訴訟に発展した際もスムーズに対応できる
お互い冷静に取り決めができる
離婚や子供関係の問題は当事者同士で話し合いをすると感情的になってしまう傾向があります。しかし第三者である弁護士を同席させることにより、お互いの冷静な対応が期待できます。
また弁護士は代理人として交渉することもできます。相手と直接会いたくない場合、直接連絡をしたくない場合は弁護士に依頼することで相手との交渉や連絡を一任できます。
不利な条件を断ることができる
面会交流の条件を話し合う上で「毎日会わせろ」というように相手が無理な条件を押し付けてくるケースは大変多いです。弁護士に依頼することによりどこまでを拒否できるか、逆にどの条件を受け入れるべきかを確認できます。
また面会交流についての話し合いでは「面会交流をさせないなら養育費を払わない」といったように養育費の支払を交渉の条件として持ち出す人もいます。弁護士はあなたに有利になるよう最善を尽くしますので、このような不利な条件は拒絶してもらえます。
証書を作成しトラブルに備えられる
面会交流の条件についてお互いに合意に至れば公正証書を弁護士に作成してもらえます。公正証書は非常に強い証拠力を有した書類ですので、相手側に「条件を守らなくてはいけない」という心理が生まれ大変効果的です。
また公正証書は裁判における証拠としても有効です。条件を公正証書で残しておくことにより将来的なトラブルに備えられます。
訴訟に発展した際もスムーズに対応できる
もし面会交流についての交渉がまとまらない場合、家庭裁判所で面会交流調停を行うことになりますが、それでも条件が決まらない場合は調停不成立になり裁判所で審理が行われることになります。あらかじめ弁護士に相談をしておくことにより裁判所での手続きや書面の作成などを全て弁護士に行ってもらえます。
また相手が面会交流の現状に不満を持ち訴訟を起こした場合も、こちら側の主張や反論を弁護士にまとめてもらい、手続きや書類作成を全て任せることが可能です。
まとめ
面会交流は子供の健全な発育のために行うものですので特別な事情がない限り拒否はできません。相手に会わせたくないという気持ちで面会を拒否したり、ウソをついて面会を妨げたりすることは違法です。間接強制によって制裁金を要求されるだけでなく、慰謝料を請求されることも。
しかし相手が子供に虐待を行うなど子供に直接的な悪影響がある場合、面会交流に際し無理な条件を押し付けてくる場合は交流を拒否できます。面会交流を拒否できるか確認をしたいとき、相手とトラブルになって困っている場合は弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士に依頼することにより相手との交渉を一任できる上、不利な条件を避けることができます。あなたと子供が面会交流によるトラブルから解放され、新しい生活を安心して送っていけるよう力になってくれるでしょう。