- 「嫁の不妊が分かって離婚を考えている」
- 「嫁の赴任で離婚するときは、慰謝料を支払う必要がある?」
子どもが欲しい夫婦にとって、嫁が不妊と分かったときは離婚の二文字が頭をよぎることもあるでしょう。結婚したからといって必ず子どもが授かる訳でなく、いざ妊活してみたら不妊が発覚するというケースも。とくに最近は男女とも晩婚化が進み、不妊に悩む夫婦が少なくありません。
そこでこちらの記事では、嫁の不妊が発覚し離婚を考えたときの対処法について詳しく解説。状況別に離婚できる・できないケースや、慰謝料請求に関しても紹介していきます。逆に夫から離婚を求められた場合についてもお教えします。不妊問題は決して他人ごとではありません。夫婦にとって何が幸せかよく考え、最善の道を選びましょう。
嫁の不妊が原因で離婚は可能?
まずは嫁の不妊が原因で離婚できるかどうかについて、ケースごとに解説していきます。
不妊が原因で離婚できるケース
不妊が原因で離婚できるのは、次のような場合です。
双方の合意がある
夫婦の双方が合意すれば離婚できます。このような離婚方法は「協議離婚」といい、離婚届けに夫婦それぞれの署名捺印をし、役所に提出すれば離婚は成立。日本で最も一般的な離婚方法で、実に9割以上が協議離婚を選択しています。
夫婦間の協議がまとまらない場合は、家庭裁判所で開かれる調停を利用する「離婚調停」に進みますが、ここでも双方の合意があれば離婚が可能です。調停では2名の調停委員が夫婦それぞれの話を聞きながら、離婚そのものや離婚条件の話し合いを進めます。しかし離婚を命じる権利はないため、夫婦が合意しない限り調停は「不調」に終わります。
不妊きっかけで夫婦関係が破綻した
不妊がきっかけで夫婦関係が破綻した場合は、離婚が認められる可能性が高いでしょう。例えば次のようなケースです。
- 不妊治療に対する姿勢が夫婦で異なり、価値観の違いが明確になった
- 不妊治療をめぐって喧嘩が絶えず、夫婦仲が険悪になった
- 不妊に悩むあまりにうつやセックスレスになった
- 不妊が原因で長期間別居するようになった
- 不妊が発覚して夫からモラハラやDVを受けるようになった
このようなケースでは、離婚裁判で「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると認められれば離婚が可能です。離婚裁判では、下の5つの法定離婚事由が必要となります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 配偶者の生死が3年間明らかでない
- 強度の精神病で回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
そのため不妊が原因で夫婦仲が悪くなり、夫が妻以外の女性と不倫や浮気などの不貞行為をした場合も、離婚が可能です。裁判ではいずれの理由で離婚する場合も、第三者から見た客観的な証拠が不可欠。どのような状況になれば離婚ができるかについてや、法的に有効な証拠については離婚問題に強い弁護士に相談してください。
離婚裁判の期間について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚裁判の期間を手続きの流れごとに解説!長引くケース・期間を短縮する秘訣とは?」
不妊が原因で離婚できないケース
不妊が原因で離婚できないケースもあります。
「不妊」が理由だけでは難しい
夫婦間にこれといった問題がない場合は、不妊が理由だけでは離婚できません。とくに夫婦のどちらか一方が離婚を拒否しているケースでは、不妊だけを理由に裁判を申し立てても離婚を認められることはないでしょう。離婚裁判では、上にあげた5つの法定離婚事由が必要で、単に不妊というだけでは夫婦関係を継続できない事情とはいえないため。
実際に子どもがいなくても、円満な夫婦はたくさんいます。今は不妊で夫婦仲が悪くても、いずれ回復する可能性がないとはいえません。裁判所ではそのような可能性を考えながら、夫婦関係が修復できない決定的な理由がない限りは離婚を認めていないという訳です。
不妊で離婚する場合の慰謝料請求は?
不妊で離婚する場合、慰謝料請求は認められるのでしょうか。一般的に慰謝料とは、離婚原因を作った方(有責配偶者)が、精神的苦痛を与えたとしてもう一方に支払う離婚時のお金です。慰謝料が発生するのは、相手による不法行為によって精神的苦痛を受けたとき。不妊が不法行為に該当するかが、慰謝料発生のポイントになります。
不妊が理由で慰謝料請求はできない
不妊だけが理由で離婚する場合、基本的に慰謝料請求はできません。というのも不妊は身体的な症状で、自分が望んで不妊になった訳ではないからです。たとえ不妊治療の過程で、不妊の原因が嫁にあったと分かったからといえ、嫁本人にその責任を問うことはできません。
従って嫁の不妊は「有責」とはならず、「嫁の不妊のせいで離婚せざるを得なくなった」と思っても慰謝料請求は難しいでしょう。また不妊という結果が出たことが、夫婦関係や共同生活の平穏を害する行為とは一概に言えないため、裁判所が慰謝料請求を認める可能性はほぼありません。
不妊がきっかけの不法行為があったときは可能
ただし不妊をきっかけとした不法行為があったときは、慰謝料請求が可能です。例えば不妊が分かった後で嫁が不倫したり、自分が回復の見込みがないほど重いうつ病を患ったときなどです。また自分の不妊が原因で、配偶者に暴力や暴言を受けた場合も慰謝料を請求できます。
不妊治療には夫婦双方の協力が不可欠です。不妊が分かったことで不妊治療へのモチベーションが下がり、セックスレスになる夫婦も。不妊が遠因となって長期間のセックスレスになった場合も、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として、慰謝料請求が認められる可能性があります。
なるべく多くの慰謝料が欲しいという人は、こちらの記事を参考にしてください。
「離婚慰謝料で1000万もらえる?高額慰謝料を手にする方法と減額するコツとは」
不妊であることを隠していた場合は請求できる
また嫁自身が不妊の可能性を知っていて、結婚後に不妊に至った場合は慰謝料を請求できる可能性があります。結婚後に不妊が判明したケースでは、不法行為の概念である「故意または過失によって相手に損害を発生させること」には当てはまりませんが、妊娠できない可能性を隠したまま結婚したことは「故意」と認められる可能性が高いため。
実際に京都地裁で昭和62年5月12日に出た判決では、性交不能を隠したまま結婚した男性に対して、結婚後一度も性交渉を持たないこととそれによる婚姻関係の破綻によって精神的苦痛を負ったとして、200万円の慰謝料請求が認められました。
結婚時には自分に不利になるような事情を相手に明かしたくないという心情は理解できるものの、その事実を告白することで結婚そのものがなくなるだろうと予想される場合には、事実を知らせないことが信義則違反とみなされ、不法行為による責任を免れないというのが過去の判例に基づく法的な解釈です。
参照:「モラハラ」や「セックスレス」は離婚事由になるのか?|Yahoo!ニュース
離婚が頭をよぎったときの対処方法
この記事を読んでいるということは、嫁が不妊と分かり「離婚」の二文字が頭をよぎった人が多いのではないでしょうか。そこでこちらでは、離婚を迷ったときの考え方や対処方法について解説してきます。
自分にとって何が幸せか考える
まず自分にとっての幸せが何かを、十分に考えましょう。愛する人と結婚しこれからの人生を共に過ごすことが自分の幸せだと思えば、必ずしも離婚する必要はありません。世の中には子どもを持たなくても(持てなくても)円満な結婚生活を送っている夫婦はたくさんいます。
しかし子どもを持つことこそ自分の幸せで、そのためなら離婚もやむを得ないと考えるのであれば、離婚した方があなたの幸せに近づけるはずです。こちらの問いに対する正しい答えは、人それぞれで異なります。親や親せき、友人など周囲の人の意見は無視して、自分自身の気持ちに正直になりましょう。
離婚を迷っている人は、こちらの記事を参考にして迷う理由を知って正しい決断をしましょう。
「離婚を迷う人必見!迷う理由や離婚を決断した理由を知って、未来のために正しい行動を」
夫婦で話し合いをする
夫婦で今後について話し合いすることも重要です。逆に、ろくに話し合いもしないまま一方的に離婚を決意するのは誤りです。嫁が不妊と分かったからといって、不妊治療で子どもを持てる可能性がゼロではない場合も多いです。そのため、次のようなことを夫婦で話し合うことをおすすめします。
- 不妊治療をするかどうか
- 不妊治療をいつから始めるか
- 不妊治療のやめ時
- 希望する子どもの数
- 子どもができなかったらどうするか
まずは、夫婦として不妊にどう対応するか話し合うようにしましょう。双方が「子どもが欲しくてたまらない」のであれば不妊治療を始めるべきでしょう。「無理してまで子どもを希望しない」なら不妊治療のやめ時を決めておくことをおすすめします。子どもがいない場合の将来設計を考えたり、養子をとることを検討するという選択肢もあります。
そして、夫婦にとって子どもを持つことがどのくらい重要なのかについて話し合いましょう。夫婦関係は、このような問題をひとつずつ乗り越えていくことで成熟します。初めから離婚ありきではなく、婚姻関係を継続することが本当に無理なのか、継続ためにできることがないのかをじっくり話し合うことをおすすめします。
不妊治療を受ける
不妊治療で子どもを授かる可能性がある場合は、不妊治療を受けることをおすすめします。現代の不妊治療は発達しているので、待望の子どもを持てる可能性も大いにあるからです。ただし不妊治療には、膨大な費用や片方(主に妻側)への心身の負担がかかることを忘れずに。
治療期間が長くなるにしたがって、不妊治療についての理解不足や熱量の違いから夫婦関係が悪化する場合が。また不妊治療を続けるうちに「そこまでして子どもを持ちたくない」と考えが変わる方もいます。不妊治療のやめ時を決めることはもちろんですが、折に触れ夫婦で話し合いを持つことをおすすめします。
養子縁組を考える
不妊治療ができない場合は、「養子縁組」で子どもを持つという選択肢があります。養子縁組とは法律上の手続き(契約)によって親子関係を作る制度で、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の二種類があります。
養子縁組の種類 | 内容 |
---|---|
普通養子縁組 | 養親との間に親子関係が成立しても、実親との親子関係も継続する(婿養子・孫養子など) 戸籍の続柄に「養子(養女)」と記載される |
特別養子縁組 | 法的に養親との親子関係が成立すると、実親との親子関係は消滅する(児童相談所を通じた里親制度も当てはまる)
戸籍の続柄に「長男(長女)」と記載される |
子どもを持ちたい夫婦にとって養子縁組をする場合は、特別養子縁組で手続きされることが多いでしょう。特別養子縁組の成立には次のような要件があります。
- 養親は原則25歳以上で、夫婦2人で養親となること
- 容姿は原則15歳未満であること
- 実親の同意があること(場合によっては不要)
- 縁組成立前に、養親が養子を6カ月以上監護している実績があること
特別養子縁組の成立には、家庭裁判所の審判が必要です。養親の居住地を管轄する家庭裁判所に「特別養子縁組成立の申し立て」を行います。審判が確定して養子縁組が成立すると、実親との親子関係は消滅します。特別養子縁組の手続きには法的な知識が欠かせません。そのため早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。
子どものいない夫婦に目を向ける
子どものいない夫婦に目を向けてみるのも、嫁の不妊で悩んだときに有効です。子どもを持つことだけを考えていた方は、一度周囲を見てみると子どもがいなくても信頼しあって幸せに暮らしている夫婦もたくさんいるはず。そのような夫婦がどのような関係性で、これまでの人生をどう歩んできたか知れれば、自分たち夫婦の在り方のいいヒントになる可能性も。
子どもは成長し、いつか夫婦の元から巣立っていきます。いずれ多くの夫婦は、2人きりの生活に戻るはず。子どものいない夫婦は子どもにお金や時間がかからないので、自分たち2人の生活を充実できます。旅行や趣味などで夫婦2人の生活を謳歌できるのも、幸せの形の一つでしょう。
弁護士に相談する
不妊問題で離婚を考えたら、夫婦問題に詳しい弁護士に相談してみましょう。不妊は非常にデリケートな問題のため、誰にでも相談できる話題ではありません。その点、弁護士なら守秘義務を負っているので夫婦のプライバシーは十分に守られます。
経験豊かな弁護士なら、様々な夫婦の問題を見てきているので、夫婦関係を修復するためのアドバイスを受けられます。また離婚したい場合には、離婚の可否や離婚方法、離婚条件や慰謝料請求に関しての実務的なアドバイスをもらえるでしょう。先の見通しが立てられるだけでも、心理的な負担が軽減します。結婚生活の今後に迷ったら、ぜひ実績が豊富な弁護士に相談しましょう。
離婚時に依頼したい弁護士に選び方や費用については、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚時に依頼したい弁護士の選び方|相談前・相談時のポイントと費用に関する注意点を解説」
自分の不妊が原因で離婚を求められたときは?
こちらの記事を読んでいる方の中には、自分の不妊が原因で配偶者に離婚を求められているという人がいるかもしれません。そこで離婚を求められたときに何をすべきかについて解説していきます。
離婚したくないときは拒否し続ける
自分の不妊が原因で離婚を突き付けられても、あなた自身が離婚したくないときは拒否し続けてください。不妊だけが理由のケースでは、離婚を認められる可能性が極めて低いため。本当に離婚したくないときは、全力で拒否しましょう。
ただし不妊が分かって辛いのにすぐに離婚を求めてくるような相手とは、本当に結婚生活を続けるべきか考えるきっかけになるでしょう。不妊に対する理解が得られないどころか、不妊の人を傷つける言動をしてくるようであれば、離婚を考えてみてもいいのでは?ただし離婚時期はあなたのタイミングで。様々な離婚準備や心の準備が済んでからで構いません。
突然配偶者に離婚したいと言われたときの対処方法については、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚したいと言われたら…離婚の可否や直後の対処方法、NG行動を知ろう」
相手の言動次第では慰謝料請求が可能
あなたの不妊に対して暴言を浴びせてきたり、暴力をふるうような相手には、精神的苦痛に対する慰謝料請求が可能です。慰謝料請求が可能かどうかは言動の頻度や度合い、証拠の有無によって変わります。もし離婚時に慰謝料請求を考えている場合は、証拠を持参の上、弁護士に相談しましょう。
離婚理由や婚姻期間による離婚慰謝料の相場は、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚慰謝料の相場が知りたい!離婚理由や婚姻期間による相場・金額をアップさせるポイントを解説」
「解決金」で決着をつけるケースも
夫の離婚要求に対して慰謝料請求が難しい場合は、「解決金」で決着をつけるケースがあります。解決金とは文字通り、離婚問題や夫婦間のトラブルを解決するためのお金のこと。離婚原因が不妊だけのケースにおいて、双方の合意がない場合は裁判でも離婚が認められません。
もし夫から離婚を突き付けられたら、離婚に応じる条件として解決金を請求してみてはいかがでしょうか。直接解決金を請求する以外にも、財産分与で1/2よりも多めに受け取れるようにするという方法も。解決金は慰謝料のように裁判で決まった相場がありません。夫婦で話し合って自由に金額を決めることができます。
離婚時の解決金の相場や気になる税金については、こちらの記事を参考にしてください。
「離婚時の解決金の相場は?気になる税金や8つの注意点もくわしく解説」
夫が不倫している可能性
2人で話し合って子どもを持たない選択をしたのにもかかわらず、夫が突然「やっぱり子供が欲しくなったから離婚しよう」と言い出したときは、不倫している可能性があります。不倫(不貞行為)の証拠を集められれば、夫とその相手に慰謝料請求が可能です。そして有責配偶者である夫からの離婚請求は認められないため、あなたのいいタイミングで離婚ができます。
もし別居になった場合は、収入の少ない方が多い方に対して婚姻費用を請求可能です。夫が支払いに応じないときは婚姻費用分担調停を申し立てて強制的に支払ってもらうことができます。まずは夫の不倫が事実かどうかしっかり調査したうえで、その後の対策を練りましょう。
まとめ
嫁が不妊というだけでは、相手が同意しない限り離婚することはできません。ただし不妊がきっかけで夫婦仲がうまくいかなくなり、夫婦関係が破綻したとみなされれば離婚が可能です。また離婚裁判で必要な法定離婚事由があれば離婚が認められる可能性が高いです。
慰謝料も同様で、不妊というだけでは請求できません。不妊に関連した不法行為があったときや不妊であることを隠して結婚したケースでは、慰謝料請求が認められるでしょう。逆に自分の不妊が原因のときには、夫の言動次第で慰謝料請求できたり、解決金を提示して離婚を受け入れるという方法も。
いずれの場合も、すぐに離婚を考える必要はありません。まずは自分の幸せについて考え、次に夫婦で不妊治療や子どもがいない将来について話し合いましょう。養子縁組を検討したり、子どものいない夫婦に目を向けるのも有効です。自分たちで答えが出せなかったときや、どうしても離婚が必要なときは弁護士に相談するのがおすすめ。夫婦関係修復のためのアドバイスが受けられるほか、離婚や慰謝料請求の手続きについても任せられます。