- 「何度言っても夫がタバコをやめてくれないので、離婚を考えている」
- 「タバコはやめたと言っていたのに黙って吸っていた!許せない!」
タバコは喫煙者本人だけでなく、そばにいる人にも健康的な害を及ぼします。タバコにかかる費用や臭いに嫌悪感を抱く方もいるでしょう。配偶者にタバコを止めてといっても止めてくれない、もしくは隠れて喫煙していることを理由に離婚を考える方は決して少なくありません。
相手のタバコを理由に離婚することは可能なのでしょうか?実際にタバコを理由に離婚ができるパターンや慰謝料請求の可否を解説していきます。離婚に踏み切る前の対処法についても紹介していますので、配偶者の喫煙習慣にストレスを抱えている方はぜひ参考にしてください。
配偶者のタバコが原因で離婚する理由5つ
喫煙者の方、タバコに嫌悪感を抱かない方は「タバコくらいで離婚なんて」と思うかもしれません。しかしタバコを理由に離婚を考える方は決して珍しくありません。まずはなぜタバコが原因で離婚に至るのか、具体的な理由を紹介していきます。
健康への影響
タバコは健康に大きな害をもたらすものです。タバコには有害物質が含まれさまざまなガンの原因になるだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞の危険因子にもなります。まさに百害あって一利なしの存在と言えるでしょう。
タバコの火がついた部分から立ち上がる副流煙は、喫煙者が吸う主流煙よりも有害物質が多いことが知られています。そのため喫煙者本人だけでなく受動喫煙をする家族にまで影響を及ぼします。
近年では副流煙が出ない電子タバコ(加熱式タバコ)を喫煙する方も増えていますが、喫煙者が吐き出した煙(呼出煙)には有害物質が含まれるため、いずれにせよ受動喫煙は避けられません。
子どもへの影響
タバコは子どもにも様々な悪影響を及ぼします。保護者の喫煙は乳幼児突然死症候群(SIDS)の可能性を5倍も上昇させることが分かっています。またタバコに含まれる有害物質の浮遊粒子はアレルギー疾患の原因になるとも言われています。
また子どもの誤飲事故の中で、一番多い事故はタバコによるものです。タバコ一本に含まれるニコチンは子どもの致死量に相当するため、誤飲の状況によっては命に関わることも。できるだけ子どもの生活範囲にタバコを置きたくない方も多いでしょう。
子どもの健やかな成長は親の願いです。それにも関わらず配偶者が子どもへの影響を理解せずタバコをやめない場合、子どもを優先し離婚を視野に入れるのはやむを得ません。
お金がかかる
タバコにかかる税金は増加傾向にあり、タバコの値段も上がりつつあります。現在タバコ一箱の値段はおおよそ500円~600円程度。もし一箱600円のタバコを一日一箱吸った場合、一カ月にかかるタバコ代は600円×30箱=18,000円にもなります。
家計のためにタバコをやめてほしいと訴えているにも関わらず喫煙を続けている場合、その態度が自分本位に感じられ、離婚を考えることも十分にあり得ます。
タバコをやめられず嘘をつく
タバコをやめると言っていたにも関わらず、嘘をついて隠れて喫煙していたケースです。喫煙者本人はタバコを隠れて吸っても気づかれないと思い込んでいるかもしれませんが、タバコの臭いは長く残るものです。そのため「タバコを吸っていない」という嘘はすぐにバレます。
タバコには依存性がありますので、「禁煙する」と約束しても我慢しきれずに吸ってしまうのはやむを得ないかもしれません。しかし理由が何であれ嘘をつくことは相手への裏切り行為です。嘘をつかれた方は心に傷を負い、離婚を考えるように。
家族へ気配りをしない
先に述べた通り、タバコは本人だけでなく周囲の人の健康へも害を及ぼします。そのため非喫煙者と一緒にいる時は喫煙を避ける、もしくは別の場所でタバコを吸うなどの気配りが大切です。
しかし配偶者が全く気配りをせずに喫煙を続けていた場合、喫煙行為そのもの以上に自分勝手な態度が気になるようになり、離婚したいと思ってしまいます。
配偶者のタバコを理由に離婚は可能か
では実際に「配偶者がタバコをやめてくれない」等、喫煙を理由とした離婚は可能なのでしょうか。タバコだけが離婚の理由である場合、相手の同意が得られれば離婚はできますが、相手が離婚に反対する場合は離婚ができない可能性があります。
相手が同意すれば離婚はできる
離婚をするためには、離婚届を作成し市区町村役場に提出をする必要があります。離婚の理由に関係なく相手が離婚届の提出に同意すればそれだけで離婚が成立するということです。このようにお互いに同意した上で離婚することを協議離婚と呼びます。
厚生労働省の調査によると、離婚する夫婦のうち協議離婚によって離婚をしている夫婦は88.1%。大半の夫婦が話し合いのみで離婚していることが分かります。
(参考:厚生労働省|令和4年度「離婚に関する統計」の概況)
しかし相手が反対をして交渉に応じないなど、当事者同士のみの話し合いで離婚ができない場合は家庭裁判所に調停を申し立て、離婚調停によって解決を試みます。
離婚調停とは二人の調停委員を通し、間接的に離婚について話し合いを行うことです。調停によって成立する離婚を調停離婚と呼び、協議離婚と同様にお互いに同意すれば理由に関係なく離婚が成立します。
離婚調停はあくまでも話し合いです。そのため相手が離婚に反対し続けた結果、調停が不成立になることも。その場合は離婚裁判を申し立て、法律で離婚を認めてもらうことになります。
相手が離婚に同意しない場合
離婚調停を行っても相手が離婚に同意しない場合、離婚原因がタバコのみで他に理由がなければ離婚ができない可能性があります。
離婚裁判をすれば必ず離婚ができると考えている方は決して少なくありません。しかし実際に裁判で離婚を認めてもらうためには、民法で定められた理由が必要です。法的に離婚を認めてもらうための条件を法的離婚事由と呼び、以下の5ついずれかに該当する場合は相手の同意が得られなくても離婚が認められます。
- 不貞行為があった
- 悪意の遺棄があった
- 3年以上配偶者が生死不明である
- 回復の見込みのない精神病である
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある
タバコは法的離婚事由に該当しない
2つ目の悪意の遺棄とは、民法で夫婦に課されている同居義務・協力義務・扶助義務を果たさないこと。黙って別居する、生活費を渡さない等の理由が該当します。5つ目の婚姻を継続しがたい重大な事由とは、DVやギャンブル、過度の浪費など第三者から見て「結婚生活を続けられない」と判断できる事柄が該当します。
タバコは確かに第三者への害があるものであり、タバコが嫌いな方にとっては忌々しい存在かもしれません。しかし法律で禁止されていない嗜好品のためタバコだけでは「婚姻を継続しがたい」とは判断されません。
タバコが理由で離婚が認められるケース
タバコ以外に相手に非がない場合は離婚が認められませんが、不貞行為など法的離婚事由に該当する行為が発覚した場合は離婚が認められる可能性があります。タバコが原因でDVやギャンブル、浪費など「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する事を行うようになった場合も同様です。
離婚裁判で法的離婚事由に該当すると認められた場合、相手の意向に関係なく離婚が認められます。裁判では証拠が必要ですので、相手が法的離婚事由に該当する行為を行った場合は証拠を確保しておきましょう。
相手が暴力を振るった場合は被害の写真・動画や医師の診断書、浪費やギャンブルの場合は相手が浪費をしていることが分かる通帳、カード明細などのコピーなどが証拠として有効です。
タバコだけが理由では慰謝料請求も難しい
慰謝料を請求できる条件は、以下の2点の条件両方を満たす場合です。
- 相手の行為が違法行為にあたる
- 自分が精神的苦痛を受けた
タバコ自体は不法行為に該当しないため、「相手がタバコを吸うから」という理由だけでは慰謝料の請求は難しいのが現状です。ただし受動喫煙によって何らかの健康被害が生じた場合、それが「タバコが原因である」という証明ができれば慰謝料を請求できる可能性があります。
喫煙の状況によっては慰謝料請求も可能
受動喫煙が健康に悪影響であることは先に述べた通りです。健康増進法では学校や病院での敷地内禁煙、飲食店や職場では原則屋内禁煙が義務付けているほか、東京都では場所に関係なく子どもに受動喫煙をさせないよう規定しています。
(参考:東京都保健医療局|東京都子どもを受動喫煙から守る条例)
配偶者がやめてほしいと訴えているにも関わらず家庭内で喫煙を続け、受動喫煙にさらし続けていた場合は相手に意図的に害を与える不法行為であり、慰謝料を請求できる根拠になり得ます。
受動喫煙の害は目に見えないため、健康に害が生じても「受動喫煙が原因だ」と証明がしにくいのが現状です。しかし実際に受動喫煙を理由に高額な慰謝料が認められた例として、平成21年に職場での受動喫煙が原因で化学物質過敏症になったとして、会社側から被告に700万円を支払うよう命じたケースもあります。
(参考:厚生労働省|受動喫煙をめぐる訴訟の動向)
相手の受動喫煙によって明確な健康被害が生じたと感じている場合、慰謝料の請求を視野に入れてもよいかもしれません。状況によって請求の可否や金額は変わりますので、専門知識のある弁護士に相談することをお勧めします。
タバコが原因で離婚したいと思ったら
タバコに対する嫌悪感は簡単に拭えるものではありません。しかしタバコ以外に相手に非がない場合、安易な気持ちで離婚に踏み切るべきではありません。離婚によってタバコから解放されるというメリットはありますが、それ以上にデメリットもあるためです。まずはタバコによるストレスを軽減できるよう模索しましょう。
タバコについて明確なルールを決める
相手には禁煙してほしいと思っていても、実際にはなかなか難しいものです。タバコに含まれるニコチンは極めて強い依存性があり、麻薬であるヘロイン・コカインをやめるのと同じくらい難しいとも言われます。
そのため完全な禁煙を求めるのではなく、まずは嫌悪感を軽減できるルールを決めましょう。具体的には以下のようなルールです。
- 煙が出ない無煙たばこや加熱式たばこにする
- 家では吸わず外で喫煙するようにする
- 一日の本数を定める
ここで重要なのは相手に無理のあるルールは定めないことです。無理のある決まりを定めると守ることができなくなり、喧嘩に発展する恐れがあるためです。安易にタバコの依存は止められないことを理解し、歩み寄る姿勢を大切にしましょう。
禁煙外来で治療を受ける
相手に完全に禁煙をしてもらいたい場合は禁煙外来での治療も視野に入れましょう。ニコチン依存症は立派な病気であり、禁煙を希望する方専用の禁煙外来を設けている医療機関も増えつつあります。
以下の条件に全て該当する場合、保険診療で禁煙治療を受けられます。
- 専用のスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断される
- 1日のタバコの喫煙本数×喫煙年数が200以上(35歳以上の場合)
- すぐに禁煙することを希望している
- 治療についての説明を受け、同意している
禁煙外来では禁煙指導だけでなく、ニコチン依存症の症状を和らげる補助薬を処方してもらえますので、自力で禁煙をするよりもはるかに軽いストレスで禁煙に挑めます。
離婚調停を利用する
相手に禁煙外来を受診するよう促しても応じてくれないなど、状況が改善しそうにない場合は離婚調停の申し立てを検討してはどうでしょうか。離婚調停では調停委員を介し、離婚するかしないか、離婚をする場合は条件をどうするかについて話し合いができます。
離婚調停の手続きは自分で行えますが、弁護士に依頼する方もいます。弁護士に依頼をすることで書類の準備を任せられるだけでなく、調停期日当日は同行してもらうことも可能です。
離婚調停の具体的な流れ、弁護士に依頼したほうがよいケースについては以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
離婚調停は弁護士なしで対応できる?依頼したほうがよいケースとメリット・デメリット
弁護士に相談をする
手を尽くしても問題が改善せず、離婚に踏み切る場合は弁護士に相談をすることをお勧めします。
離婚は離婚届を提出することで成立しますが、夫婦間に子どもがいる場合は親権や養育費について取り決めをしなくてはいけません。子がいない場合でも、離婚後に安定した生活を送るためには財産分与や年金分割の手続きをすべきです。弁護士に依頼をすることで、離婚に際する相手との交渉を一任できます。
またタバコだけが原因での離婚の場合、裁判で離婚が認められない可能性が高い上、慰謝料の請求もできません。しかし状況によっては慰謝料の請求が可能な場合が。法律の専門家である弁護士に依頼をすることで、最良の方法を選択できます。
まとめ
タバコは簡単に止められるものではありません。しかし非喫煙者にとっては臭いや副流煙の害など、悪い影響だけを及ぼすものですので、離婚を考えるのもやむを得ないと言えるでしょう。
しかしタバコ以外に相手に非がない場合、離婚裁判に発展しても離婚が認められない可能性が高いです。タバコは非常に中毒性が高いということを理解し、歩み寄る姿勢も重要です。
たださまざまな手を打っても状況が改善しない場合、タバコに耐えられず離婚しか考えられない場合は弁護士に相談をすることをお勧めします。弁護士に依頼をすることで、あなたに有利な条件で離婚できるよう手を尽くしてくれるはずです。