- 「離婚後も夫名義の持ち家に住み続けたい…」
- 「自宅を財産分与する場合はどのようにすればいい?」
結婚時に一緒に住んでいた家、離婚後は別々に住むことになるため、どちらかが出ていくケースが多いのではないでしょうか。中には、売却して現金を財産分与するという場合もあります。しかし子どものことや仕事のことを考え、今住んでいる家に住み続けたいという方もいるかもしれません。
そこでこちらの記事では、離婚時の財産分与で家を売らない方法について、ケースごとに詳しく解説していきます。家を売らない方法は、住宅ローンが残っているかどうかや名義がどちらになっているかなどにより変わってきます。まずは家の所有権や住宅ローンの名義、住宅ローンの残債がいくらなのか確認したうえで、取れる方法を知りましょう。
財産分与についての基本の考え方
婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を、「共有財産」といいます。結婚している間は、双方の合意の元で共有財産をどうするか決定していきます。しかし離婚後はそれができなくなるので、共有財産を夫婦で分けることになります。それが財産分与についての考え方です。こちらでは、財産分与についての基本的な考え方について見てきましょう。
基本は1/2ずつ
財産分与の原則は、夫婦で1/2ずつです。共有財産かどうかは、財産の名義に関係ありません。婚姻中に購入した夫名義の住宅であっても、離婚時には妻に1/2の財産分与がなされるのが基本です。
また妻が専業主婦で夫が主に家計を支えていた場合でも、1/2の原則は揺るがないのが基本です。夫が収入を得るために、妻が家事や育児を通して家計を支えていたと考えられるからです。財産分与の基準時は、夫婦の経済的協力関係が消滅した時点となります。具体的には別居時もしくは離婚時(別居していない場合)です。
財産分与の基礎知識と不利にならない方法については、こちらの記事を参考にしてください。
「離婚時に貯金を隠すことは可能?財産分与の基礎知識と不利にならない方法」
合意次第で割合変更が可能
財産分与は1/2ずつが基本ですが、夫婦の両方が合意すればその割合を変更可能です。双方が合意していれば、売却した現金をどちらか一方が全部受け取っても違法ではなく、妻が家を全部自分のものにすることもできます。
また財産ごとに「車は夫、現金は妻」というように、全体として半分になるように分配する方法もあります。ただしあまりにも不利な条件で財産分与を進めようとしてきた場合は、専門家に相談したうえで適切な分与方法で決めるようにしましょう。
マイナスの財産も分与の対象に
不動産や預貯金など資産といわれるプラスの財産はもちろんですが、借金などマイナスの財産(負債)も財産分与の対象となります。住宅ローンが残っている場合には、ローン残債も財産分与しなければなりません。
ただし財産分与の対象となるのは、家族が住むための家のローンや子どもの教育ローン、生活費などのための借金に限られます。次のようなものは、財産分与の対象となりません。
- 個人的な買い物のための借金
- パチンコなどのギャンブル、遊興費、浪費のための借金
- 独身時代からの借金
婚姻生活を維持するためとは関係なく、散財やギャンブルによってできた借金は財産分与の対象外です。また奨学金など独身時代からの借金も基本的に対象とはなりません。事業のための借金(運転資金)については、財産分与の対象から外れますが、事業資金とはあくまで名目上で実質的には生活のためにした借金は、財産分与の対象となる場合があります。
協力して取得していない不動産は分与の対象外
親から相続して得た不動産や、結婚前から所有していた不動産は、財産分与の対象になりません。財産分与の対象になるのは、あくまで婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産に限られます。
特別な事情がある不動産は対象外
婚姻期間中に購入した不動産であっても、次のような特別な事情がある場合は、財産分与の対象から外れます。
- 離婚後の生活のため、自分の貯蓄から購入したもの
- 仕事のために購入した不動産
離婚後の生活のために婚姻前からの預貯金で購入したケースや会社名義の不動産、個人名義であっても事業用として使用する目的で購入した不動産に関しては、原則として財産分与の対象外です。
家を財産分与する5つの方法
家を財産分与する方法は、大別すると「家を売る」「家を売らない」方法の2つに分かれますが、より詳細に分けると次の5つの方法になります。それぞれの方法の注意点や、メリット・デメリットについて見ていきましょう。
売却して現金を分ける
家を売却して現金を分けるという方法は、双方が住み続けたいという希望がない限り、最もトラブルになりにくい方法です。家を売却せずに1/2ずつ分与するのは難しいですが、家を売却できれば単純に手元に残ったお金を2人で割るだけだからです。例えば家が2000万円で売却できた場合は、単純に1000万円ずつで分けます。
ただし家を売却して現金を分ける方法の場合は、アンダーローンかオーバーローンかで財産分与の方法が変わってきます。
- アンダーローン:ローン残高よりも売却額の方が高い
- オーバーローン:売却額よりもローン残高の方が高い
以下では、売却して現金を分ける方法について具体的に見ていきます。
売却して現金化するメリット・デメリット
家を売却して現金を分ける方法には次のようなメリットがあります。
- 正確に分与できる
- 離婚後にローンを支払う必要がない(アンダーローンの場合)
- 売却益を離婚後の生活費に充てられる
家を売却して現金化することで、きっちり正確に財産分与できるというメリットがあります。また売却益がローン残高を上回っている場合、離婚後にローンを支払い続ける必要がなくなります。一方で、次のようなデメリットもあります。
- 売却に時間がかかる可能性がある
- 離婚後に住む家の確保が必要
- 共有名義の場合は名義変更の手間がかかる
今住んでいる家を売ってしまうと、離婚後に住む家を探さなければなりません。そのためにもまとまった費用が必要に。売りに出してもすぐに売れる保証はないので、売れるまで何カ月もかかる可能性が。また共有名義の場合、売却までにどちらかの名義に変更に変更するなどの手続きが必要に。煩雑な手続きがあるという点もデメリットの一つです。
離婚で市営住宅の手続きがどうなるか知りたい方は、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚で市営住宅の手続きはどうなる?離婚前・離婚後の申し込みのポイントを解説」
不動産の査定
家を売却すると決まったら、まずは不動産の査定を依頼して売却想定価格の調査をします。依頼するのは不動産会社や不動産鑑定士などの専門家です。不動産鑑定士に依頼すると詳細な価格が算出できるのですが、その分費用がかかります。大体の売却額を知りたいのであれば、地元の不動産会社に査定してもらうことをおすすめします。
アンダーローンの場合
家の売却想定価格がローン残高を上回っている場合、家を売却して得た利益からローン残債を差し引いた利益を夫婦で1/2ずつ分けることになります。
例えば売却想定価格が3000万円でローン残高が1500万円だった場合、残りの1500万円を分けるので、750万円ずつ受け取れます。ただし家を売却する場合は、契約書に貼る印紙代や仲介手数料、登記費用や譲渡所得税などの費用・税金がかかることをお忘れなく。
オーバーローンの場合
ローン残高が家の想定売却価格を上回っている場合、売却益と共有財産でローンを完済する方法が一般的です。ローン残高が残っている状態では不動産に抵当権が設定されており、その状態では通常売却ができないからです。家を売却するにはローンを完済して、抵当権を抹消する必要があります。
ローン返済については、必ずしも1/2ずつ負担しなければならないわけではありません。夫婦の話し合いで納得できれば、収入の多い方が多く支払うなどしても問題ありません。
片方が家に住み、もう片方が現金で受け取る
家を財産分与する方法のもう一つが、夫婦の片方が家に住み、家を出ていく側が相応の現金で分与を受けるという方法です。家の評価額が2000万円になる場合は、家を出ていく側に1000万円の現金を渡します。一括で全額支払えない場合は、合意があれば分割による支払いも可能です。
この方法のデメリットは、家の評価額が高いほど出ていく側に支払う金額が高額になるということ。家に住み続ける側には、ある程度の資金力が必要です。
片方が家に住み、もう片方が他の財産を受け取る
片方が家に住み、もう片方が他の財産を受け取るという方法があります。財産分与の対象となるのは不動産や現金、預貯金だけでなく次のような財産も該当します。
- 車やバイク
- 株式などの有価証券
- 退職金
- 年金
- 生命保険・学資保険の解約返戻金
- 家財道具
- 貴金属・絵画・骨とう品
例えば家をもらう代わりに、車や有価証券を渡すなどの方法がとれます。ただし家は高額になるので、他の財産を渡しても分与額全てを補えない可能性があります。その場合は、自己資金から不足分をねん出しなければなりません。
退職金を財産分与するときの計算方法については、こちらの記事を参考にしましょう。
「退職金も離婚時の財産分与になる!金額計算から請求方法まで解説します」
共有名義にする
どちらかが家に住む方法として、不動産を共有名義にするという方法があります。財産分与として、単純に家を夫婦で分けるという形です。ただしこのケースではいくつかのデメリットがあります。
- 将来売却するときに相手の同意が必要
- 相手との縁が切れない
共有名義にするのは一見するとシンプルで分かりやすい方法ですが、共有名義である以上、離婚後も相手と連絡を取り合わなければなりません。将来的なことを考えると、あまりおすすめの方法とはいえません。
慰謝料として家をもらう
相手に離婚原因がある場合、慰謝料代わりに家をもらうという方法があります。配偶者に不貞行為があったような場合では、離婚時に財産分与だけでなく慰謝料についての話し合いが行われます。慰謝料として支払うのは金銭だけでなくてもいいので、今住んでいる家を慰謝料代わりに差し出すケースがよくあります。
このような場合では、慰謝料代わりに家の権利を取得し、離婚後も引き続き住み続けることができます。
財産分与で家を売らずに済むケース別の方法
財産分与で家を売りたくないという方のために、こちらでは家を売らずに済む具体的な方法や、ケース別の対処法について詳しく解説していきます。
居住権と所有権の分離による方法
財産分与で家を売りたくない場合、居住権と所有権を分離するという方法があります。この方法では、引き続き家に住む側に居住権を与え、もう一方に所有権を与えるという形を取ります。居住権とは、その家に住み続けられる権利のことで、所有権は不動産の所有者としての権利を意味します。
この二つを分離することで、売却せずに家を財産分与できるという訳です。具体的な手順は以下の通りです。
① 居住権の設定 | 家に住み続ける側に対して、一定期間または終身の居住権を設定
この期間は、子どもが成人するまでなど状況に応じて設定する |
② 所有権の移転 | 不動産の所有権は、居住権を持たない側に移転する
これにより将来的な資産価値を保持することができる |
③ 財産分与時に賃料相当額の相殺 | 居住権の価値を算出し、その分を家に住む側の財産分与の総額から差し引く
これにより公平な分与が可能になる |
共有持ち分の変更による方法
離婚時に家を売却せずに財産分与を行う方法として、共有持ち分の変更があります。共有持ち分とは、一つの不動産を複数の人が共同で所有する場合に、各人の所有割合のことをいいます。この方法を用いると、所有権を夫婦で共有したまま、持分比率を変更することで財産分与が可能になります。
例えば、夫婦で50%ずつ所有している家があった場合、離婚時の財産分与でその比率を、夫→30%・妻→70%に変更するといった形です。具体的な手順は以下の通りです。
① 現在の持分の確認 | 現在の家の共有持ち分を確認する
夫婦で均等に所有していることが多いが、購入時の資金負担割合によって異なるケースがある |
② 新しい持ち分比率の決定 | 財産分与の総額や他の財産の分配状況を考慮して、新しい持分比率を決定
このとき、税理士や弁護士などのアドバイスを受けるのが望ましい |
③ 登記の変更 | 決定した持ち分比率に応じて、不動産登記を変更する
子の手続きには法務局への申請が必要 |
代償分割による方法
家を売却せずに財産分与する3つ目の方法として、代償分割があります。代償分割とは文字通り、代償を支払うことで財産を分割する方法。家に住み続けたい側が家の所有権をすべて取得する代わりに、相応の資産や現金を相手方に支払うという方法です。家を出ていく側に現金やその他の資産を渡すというのがこの方法に該当します。
【ケース別】家を売らずに済む方法
家を売らずに財産分与する方法について、ケース別に分けて解説していきます。具体的には住宅ローンが残っている場合と残っていない場合とに分けて見ていきます。
住宅ローンが残っている場合
離婚時に住宅ローンが残っている場合、不動産に抵当権がまだついている状態です。抵当権とは、住宅ローンを組んだ債権者である金融機関が優先的に設定することができる権利。住宅ローンを組む場合には、必ず債権者が購入する不動産を担保として抵当権を設定しています。
抵当権を設定するのは、返済の踏み倒しを防ぎ、多額の融資を実現するため。住宅ローンの返済が一定期間滞れば、金融機関は抵当権を実行し、担保となっている不動産を競売にかけ、売却で得られたお金を返済資金に充てるという訳です。
そこで住宅ローンが残っている不動産の価値を評価する場合には、ローン残高を当該不動産の売却想定価格から差し引いた額を基準とします。
不動産価値の半額を支払う
住宅ローンの名義人が家に住み続けたい場合には、残った住宅ローンは継続して支払い、相手には不動産価値の半額を財産分与時に支払う必要があります。このケースはもっともシンプルでトラブルの可能性が低い方法です。ただし家に住み続けられる一方で、財産分与時に渡す現金や残っているローンを継続して支払う必要があります。
一括返済
ローン残高が多額でないときには、残っているローンを一括で返済してしまうという方法があります。ローンを完済してしまえば、債権者が財産分与に関係することがなくなるため、夫婦の合意のみで自由に家をどうするか決められます。
ローンを引き継ぐ
夫名義の住宅ローンが残っていて、妻が家を取得して引き続き住み続けたい場合、妻が住宅ローンを引き継ぐという方法があります。そして不動産取得の代償金として、不動産価値の半額を夫に支払います。住宅ローンを引き継ぐ場合には、金融機関の承諾が必要で、妻に相当な収入が無いと認められない可能性が高いです。
「では不動産の名義を変えなければいいのでは?」と思われるかもしれませんが、住宅ローンの契約時には、基本的にローンの名義人(債務者)が対象不動産に住むことが原則です。つまり夫名義で住宅ローンを組んでいるのにその夫がその家に住まないと、契約違反になってしまいます。
リースバック
住宅ローンが残っている家に住み続ける方法として、リースバックという方法があります。リースバックとは、一旦不動産会社に家を売却しその資金でローンを返済、毎月の家賃を不動産会社に支払うことで、賃貸として住み続けられるシステムです。
これにより家をめぐって離婚後も連絡を取り合う必要がなく、家に住む側は名義変更やローンの借り換えといった手続きなしに住み慣れた家に住み続けられます。ただしリースバックの売却額は、評価額の1~3割減となるのが一般的で、毎月の家賃を押さえたい場合には、売却額も安くなるというデメリットがあります。
金融機関に相談
住宅ローンをペアローンで組んでいて、離婚後に一方が家を取得して住み続けたい場合は、事前に金融機関に相談する必要があります。ペアローンでは双方がローンの連帯保証人となっているため、離婚して債務者が1人になると伝えなければならないため。
ペアローンでは夫婦2人の支払い能力をもとに契約しているので、金融機関によっては債務者が1人になるのを承諾されない可能性があります。場合によっては別に連帯保証人が必要になることも。夫と妻の利益が相反する可能性もあるため、どのような方法がとれるか金融機関に相談することから始めましょう。
住宅ローンが残っていない場合
住宅ローンが残っていない場合には、金融機関との関係がなくなるので、よりシンプルに財産分与が進められる可能性が高いでしょう。
相手に代償金を支払う
不動産の所有権を持つ側がそのまま家に住み続けたい場合は、相手側に相応の代償金を支払えば、相手の同意なしでも家を自分の財産として維持できます。
名義人から買い取る
不動産の所有権を持たない側が家に住み続けたい場合には、まずは名義人の同意を得る必要があるでしょう。そして居住する予定の人に所有権を移転させる必要があります。所有権を移転するには、不動産の評価額に応じた代償金を支払うという同意も必要に。
一括で代償金を支払えない場合には、相手の同意が得られれば分割払いにもできます。その場合は条件等を書面に残しておくことをおすすめします。
家賃を支払って住み続ける
所有権を持たない側が家に住み続ける方法として、名義人に家賃を支払うという方法があります。一見すると一番良い方法ですが、家賃の支払いが必要になるということで、定期的に相手と連絡を取り合う必要が。相手との縁が離婚後も切れないので、円満離婚でない限りあまりお勧めできません。
家賃を支払って住み続ける場合には、賃貸借契約書の作成が必要です。場合によっては名義人から支払われる養育費等と相殺するという方法もあります。
家を財産分与するときの注意点
家などの不動産を離婚時に財産分与する場合、他の財産と違う注意点があります。
リスクが高い分与方法がある
家を財産分与する場合、ケースによってはリスクやデメリットが大きくなる可能性があります。こちらではケース別のリスクについて解説していきます。
名義変更せずに家に住む場合
名義人でない人が名義変更せずに家に住み続ける場合、いくつかのリスクが生じる可能性があります。一つ目は名義人がローン返済を怠ったときに、住んでいる人がそれを負担しなければいけない可能性があるということ。さらに名義人でない居住者は、所有者の許可なく家を改築したり他人に貸し出すことはできません。
また住宅ローンは基本的にローンを組む人が住む前提で申し込んでいるため、金融機関から契約違反を指摘される可能性があります。契約違反となった場合には、ローンの一括返済を求められる可能性があることを覚えておきましょう。
住まない方がローンを支払う場合
家に住まない側がローンを支払う場合、滞納の可能性が高いでしょう。出ていく側はたとえローンの支払いが滞っても、自分には直接に被害がありません。故意でなくても、別に生活拠点を構えるにあたってダブルで費用がかかることが考えられます。ローンの支払いが滞れば、返済がこちらに来るだけでなく、最終的に家を手放さなければならなくなることも。
このような事態にならないためには、約束事を記した書面を作成し、公正証書を作成することをおすすめします。賃貸として家賃を支払う場合には、賃貸借契約書も忘れずにかわしましょう。相場に比べて極端に安い家賃で借りた場合は、「贈与」とみなされて贈与税がかかる可能性があります。
ローン名義を変更する場合
住宅ローンの名義を変更する場合、金融機関による借り換え審査に通る必要があります。審査に通るには、経済的に自立していて返済能力に問題がないというレベルが求められるため、専業主婦の方は定職につく、パート勤めの方は正社員になるなどして、経済的地盤を固めてから申し込むようにしましょう。
またローン契約では、家の名義人が変わると債権者はローン残債を一括して請求できるという「期限の利益喪失約款」が付されているのが一般的。交渉によって分割払いにしてもらえる可能性があるもの、ある程度まとまったお金をお持ちの場合は、夫を通じてローンを一括返済し、その後で名義変更するという方法が安全です。
ペアローンを組んでいる場合
ペアローンを組んで家を購入した場合、単独名義に変更するか、住宅ローンの借り換えが必要です。とくにペアローンは夫婦二人の収入を合算してローンを組んでいるため、離婚後に世帯収入が減少した状態でローンの借り換えは難しくなるのが通常です。
このような理由から、名義変更やローンの借り換えが難しいと感じるときには、2人の自己資金でローンを一括返済してしまった方がいいでしょう。
連帯保証人の変更が必要な場合
住宅ローンの契約で夫もしくは妻が連帯保証人になっている場合も、注意が必要です。一般的には夫がローンの名義人で、妻が連帯保証人であるケースが多く見られます。離婚時の財産分与で家の名義を妻に変更する場合、夫がローンを支払わなくなると妻が代わりに支払わなければなりません。
そのような状況に陥らないためには、ローンの連帯保証人が誰になっているか確認が必要です。もしも連帯保証人になっている場合は、家に住み続ける側の親族などに連帯保証人を変更してください。
共有持ち分を変更する場合
共有持ち分を変更する場合、以下のような点について明確にしておく必要があります。事前に取り決めしていないと、後にトラブルになる可能性があるからです。
- 固定資産税など諸経費の負担について
- リフォームや修繕が必要になったときの費用負担
- 将来売却する場合の手続きや利益の分配について
毎年かかる固定資産税はもちろんのこと、持分の変更に伴って不動産取得税がかかる可能性があります。また代償金として現金を受け取る側には、譲渡所得税が課税されることも。このような税金の負担をどちらにするかや修繕・修理費用の負担について、売却する場合の利益の分配など、事前に取り決めておくべき項目がたくさんあります。
離婚後も何かにつけて連絡を取り続ける必要が出てくるため、「離婚後まで元配偶者とかかわりたくない」という方は、この方法が適していない可能性があります。
財産分与でかかる税金について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
「財産分与でかかる税金について|種類別・ケース別の税金計算方法や節税対策とは?」
財産分与には請求期限がある
財産分与には、請求期限があるのも注意したいポイントです。財産分与の請求期限は「離婚後2年以内」と定められています(民法第768条)。話し合いがまとまらず、家を売却できずに2年を経過してしまうと、財産分与の請求ができなくなるので注意しましょう。この期間のことを「除斥期間」といい、時効のように更新したり完成猶予ができないので気を付けてください。
この期間内に相手と話し合いを進め、難航する場合には家庭裁判所で調停の手続きを取るようにしましょう。調停であれば離婚から2年が経過した場合でも、調停手続きが完了するまで請求権が保たれます。
売りたくても売れないケースがある
これまで家を売らないケースについて詳しく解説してきましたが、「売らない」ではなく「売れない」というケースもあります。次のようなケースでは、売りたくても売れないという状況になる可能性があります。
- 住宅ローンが残っている
- 売り出し価格が高すぎる
- 夫婦の意見が一致しない
- 不動産会社との相性が悪い
- 内見時の対応に問題がある
スムーズに財産分与をするポイント
家に限らずスムーズ財産分与するためには、次のようなポイントをおさえる必要があるでしょう。
正確な査定評価を出す
財産分与をスムーズするには、正確な評価額を出すことが重要です。不動産であれば査定評価をしてもらって評価額を算出するようにしましょう。上で説明した通り、財産分与の対象となるのは別居時(もしくは離婚時)に保有している共有財産となります。
そしてその財産の価値を評価する基準時は、財産を分与する現在が基準となります。別居時の評価額ではない点に注意が必要です。不動産を財産分与する場合は、とくに金額が高額になりがちなため、しっかりとした査定評価を出すようにしましょう。
不動産の価値については、立地や築年数、設備の状態など様々な要因によって決まります。不動産市況の変動によっても左右されるため、次のような方法で査定することをおすすめします。
査定の方法 | 内容 |
---|---|
複数の不動産会社に依頼 | 最低でも3社から査定を取るようにし、それぞれの評価額を比較検討する
各社の査定根拠を確認して、納得できる評価を採用する |
公的な評価を参考にする | 路線価や固定資産税評価額などを参考にする
ただし実勢価格と乖離があるので、あくまでも一つの目安として活用する |
最新の市場動向を見る | 不動産市場は常に変動しているため、最新の動向を探ることも大切
直近の取引事例や近隣の価格、市場トレンドなどを参考にする |
将来的な価値変動の検討 | 現在の評価額だけでなく、将来的な価値変動の可能性がないかも検討する
再開発計画の有無や地域の人口増加、周辺のインフラ整備が進んでいるかなどを調査する |
専門家のアドバイスを受ける | 不動産の専門家のアドバイスを受け、物件の適正な価値や将来的な資産価値の見通しなどの情報を得る |
分与前に家とローンの名義人を確認
家を財産分与する場合には、必ず不動産(土地・建物)の名義とローンの名義が誰になっているか確認しましょう。同時に連帯保証人についても調べておく必要があります。場合によっては不動産の名義とローンの名義が違う可能性があります。また土地は親の名義で、建物が夫(妻)の名義という可能性も。
名義変更を行う場合には、不動産の名義とローンの名義のどちらも変更しなければなりません。どちらかの名義をそのままにしておくと、生前贈与などをする上でのトラブルの原因に。このようなトラブルを避けるためには、事前に必ず不動産の名義とローンの名義を確認しておきましょう。
離婚調停の活用
家を売らずに財産分与する場合、家庭裁判所の調停を活用する方法がおすすめです。調停というと敷居が高く感じる方がいるかもしれませんが、とくに弁護士などを立てなくても手続きが可能です。財産分与で調停を活用できると、次のようなメリットが得られます。
中立的な第三者による介入 | 家庭裁判所の調停員が両者の言い分を公平に聞いて、中立の立場から解決案を提案する
感情的になりがちな話し合いが、より客観的・建設的にできる |
専門知識の活用 | 調停委員の中には法律の専門家である弁護士や不動産の専門家が含まれることがある
このような人の専門知識を活用することで、より現実的な解決策が得られる |
子どもの利益を考慮 | 夫婦間に子どもがいる場合、調停では子どもの利益を最優先に考えることが重視される
家を売却せずに子どもの生活環境を維持するという選択が支持される可能性が高い |
合意に関する法的効力 | 調停で合意した内容は、裁判所の調停調書として作成される
判決と同等の法的効力を持つため、将来裁判になったときなどでも有効 |
離婚調停は弁護士なしで大丈夫?という方は、こちらの記事を参考にしましょう。
「離婚調停は弁護士なしで対応できる?依頼したほうがよいケースとメリット・デメリット」
財産分与の時期をずらす
家を財産分与する場合、あえて時期をずらすという方法があります。というのも不動産を対象とする財産分与では、離婚後に手続きした方が次のようなメリットが得られるからです。
- 焦らずに売却活動ができる
- 不動産の名義変更がスムーズになる
離婚後に焦らず売却活動ができると、納得できる価格で売却できる可能性が高まります。夫から妻へ名義変更する場合でも、離婚後の名字になってから手続きした方がスムーズです。ただし財産分与の期限は、離婚成立時から2年以内です。離婚後も相手と交渉を継続しなければならないというデメリットもあります。
それぞれの専門家に相談
離婚時の財産分与をスムーズに進めるには、次のような専門家のサポートを受けることが重要です。
不動産鑑定士
家の財産分与で不動産鑑定評価を行うときには、不動産鑑定士に依頼するのが有効です。不動産の鑑定評価に関する法律に基づき、家の適正価値を算出して鑑定書を発行してくれます。不動産鑑定士の出す鑑定書には法的な効力がつくので、裁判所や税務署などの公的機関に提出するときにも使えます。
依頼する場合は、日本不動産鑑定士協会連合会などの機関に所属している鑑定士を選ぶのがおすすめです。ただし不動産鑑定士に依頼する場合は、費用がかかります。マンションや戸建てなど不動産の種類によっても異なりますが、20~30万円ほどの費用がかかるのが一般的です。
司法書士
家の財産分与で名義変更などが必要なときには、司法書士に依頼してください。法務局への登記申請は、司法書士だけができる業務なので、他の士業には依頼できません。不動産の登記のみを司法書士に依頼した場合の相場は、5万円前後です。
司法書士は離婚協議書や財産分与協議書などの作成も依頼できるので、不動産の登記と併せて依頼するのもいいでしょう。ただし司法書士は、140万円を超える民事事件の相談・和解・代理業務を行えません。また家庭裁判所における代理人として活動することはできず、申立書の作成業務の代理に限られます。
弁護士
財産分与で揉めているときや、財産の洗い出しが煩雑なときには、弁護士に依頼することをおすすめします。不利な条件で合意してしまわないためには、弁護士による財産調査や相手との交渉が有効です。財産分与の他にも、親権や養育費の問題、慰謝料請求時にも次のような点で弁護士が役に立つでしょう。
- 書類作成のサポート
- 法的権利の明確化
- 高い交渉力
- リスク管理
- 税務面でのアドバイス
弁護士は司法書士のように扱える金額に制限がありません。また税理士と協力して税務面でのアドバイスも受けられます。さらに弁護士照会制度などを利用して、相手の財産の調査も可能。財産分与で損をしないためには、正しく正確に財産を把握する必要があります。その点でも弁護士が役に立つという訳です。
財産分与に関する弁護士費用について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
「財産分与に関する弁護士費用|内訳別相場や変動する要素、安くする秘訣を解説」
まとめ
離婚時の財産分与で家を売らない方法には、大まかに居住権と所有権の分離、共有持ち分の変更、代償分割による方法の3種類があります。そして住宅ローンの有無や不動産・ローン名義がどちらかなどによって取れる方法が変わってきます。まずは名義や連帯保証人がどうなっているか、家の評価額を確認したうえで、自分の希望がかなえられそうか検討しましょう。
財産分与の対象となるのは、別居時もしくは別居していない場合は離婚時に保有している共有財産です。基本的に1/2ずつの分与で、離婚時点での評価額で算出します。家を財産分与する場合は、離婚後に手続きした方がスムーズですが、2年以内という請求期限があることを忘れずに。
なるべくトラブルなく財産分与を進めるためには、正確な査定評価を出し、事前にローンと家の名義を確認してください。場合によっては離婚調停を活用することも有効です。そして司法書士や不動産鑑定士、弁護士などの専門家に依頼するのも重要です。とくに弁護士は相手との交渉や書類作成のサポート、離婚調停の手続きなど離婚全般の手続きを任せられます。まずは無料相談を利用して、どのような手順で離婚を進めるべきかアドバイスをもらいましょう。