- 「障害児の世話で手いっぱいで夫が浮気をした…」
- 「障害児がいる夫婦の離婚の実態は?」
障害児のいる夫婦はそうでない夫婦に比べて不和になりやすいと聞いたことはありませんか?そして不和が解決できない程進んでしまうと、最終的には離婚ということに。こちらの記事では、障害児がいる夫婦の実態や離婚に至る理由、離婚の回避方法について詳しく解説していきます。
離婚後、障害児を自分一人で育てるという場合には、養育費をはじめとするお金や周囲の協力体制についてもしっかりと準備する必要があります。障害児を抱えて離婚になりそうという方や、離婚時にどのような準備をしたらいいか分からないという方は参考にしましょう。
障害児がいる夫婦の離婚の実態
まずは障害児がいる夫婦の、離婚の実態について見ていきましょう。
離婚率が高くなる傾向
障害児がいる夫婦は、そうでない夫婦に比べて離婚率が高くなる傾向にあります。日本における障害児のいる家庭の離婚率は、健常児世帯の約6倍というデータも。またアメリカの調査によると、自閉症を含む発達障害の子を持つ夫婦の離婚率は80%近くあると言われています。
とくに若い年齢の夫婦では、人生経験や社会経験が十分でないことから、離婚率がより高くなる傾向に。このように統計からも、障害児のいる夫婦では離婚率が高くなるということがはっきりしています。
参考:発達障害のあるパートナーとの悩み|NHKハートネット・障害児の医療ケアを背負うのは9割が母親 保育園に通いたくても門前払い|AERA
夫から離婚を切り出すケースが多い
障害児のいる夫婦では、夫から離婚を切り出すケースが圧倒的に多いのが現状です。障害がある子どもを育てるのは大変なこと。本来ならば夫婦が協力して育てていく必要がありますが、子どもと接する時間が少ない夫は、他人からの目線を持っている傾向があるためです。
普段子どもと接する時間が短い夫は、子どもの障害由来の振る舞いや言動を受け入れることができず、その行動の理由を妻のせいにしがちです。このようなどうにもならない家庭環境にストレスを感じ、その家庭から逃げ出すように離婚を選択してしまうという訳です。
障害児の親が抱きやすい問題
生まれたばかりのころはそれほど健常児と変わりなく、夫婦がしっかりと協力してさえいれば無事に育てることができると考える人が多くいます。しかし子どもが成長するにつれ、様々な困りごとや片方への負担、ストレスが増えていきます。それが次第に夫婦間に溝を生じさせ、解決困難な問題を抱えてしまうことに。
こちらでは障害児の親が抱きやすい問題や、夫婦仲が悪くなる理由について見ていきましょう。
夫の障害に対する理解不足
障害児がいる夫婦が抱きやすい問題の原因に、夫の障害に対する理解不足があります。とくに男性に多いのが、障害を持った子どもを受け入れられない、理解する気持ちがないという人です。母親は妊娠から出産に至る約10カ月間で母性が芽生え、子どもが生まれる頃には母親としての自覚が出ます。
そのため子どもの障害の有無にかかわらず、子どもを受け入れやすいという傾向が。一方の男性は子供が生まれた時点では父親としての自覚がないという人も少なくありません。そういった父親が子どもに障害があると分かると、現実を受け入れられなかったり、障害を理解しようという気持ちがなくなってしまったりします。
障害への理解ができていないと、様々な場面で父親からの協力が得られなくなるばかりでなく、子どもを守ろうとする母親と、子どもを受け入れられずどうしたらいいか分からない父親との間に溝が生じてしまうという訳です。
カサンドラ症候群で離婚する方法や発達障害の夫とスムーズに離婚する方法は、こちらの記事を参考にしましょう。
「カサンドラ症候群で離婚するには?ASD配偶者との離婚を考える理由とスムーズに離婚するポイント」
障害児にかかりきりになりがち
子どもに障害があると、母親は世話にかかりきりになってしまいます。実際18歳未満の障害児がいる家庭において、母親が主として介護・看護する割合が9割を占めていたという調査も。障害の程度が重いほど、日常生活の介助や病院への送り迎え、入院時の付き添いなど子どもにつきっきりにならなければいけないケースが多々あります。
そのような中で夫婦間のコミュニケーションが十分に取れず、またストレスを抱えた妻がいる家庭から背を向けたいがために、夫の関心が家庭以外のところに向くケースが少なくありません。
育児ノイローゼで離婚ができるかについては、こちらの記事を参考にしましょう。
「育児ノイローゼが原因で離婚はできる?苦しい理由や対処法を知り後悔しない選択を」
ストレスがかかる
子どもに障害があると、親に大きなストレスがかかるのは当然です。また障害の程度や種類によっても、そのストレスの度合いが変わってきます。子どもの障害の程度により親のストレスを比較した研究によると、自閉症児の親が他の障害を持つ子の親よりも高いストレスを示していたという統計があります。
また平成15年度の厚生労働省の調査によると、介護者の平均睡眠時間は5~6時間、6~7時間がそれぞれ3割。しかも4人に1人の割合で睡眠時間が断続的で、十分に取れないという現状が。障害児を抱えていると外で働くことも難しく、社会との関りがないことによるストレスも生じます。
このようなストレスにより心に余裕がなくなり、子どもを受け入れられなくなる人もいるでしょう。頭では「障害があるから仕方ない」と分かっていても「どうして他の子と違うのか」「どうしてこんなこともできないのか」という気持ちになり辛くなります。そのようなときに配偶者が少しでも理解がない言動をすると、相手が許せないという気持ちになってしまうのは当然でしょう。
夫婦間の価値観の違い
夫婦間の価値観の違いが浮き彫りになり、夫婦関係がギクシャクすることがあります。とくに夫婦間の家事や育児の負担割合についての価値観です。
平成26年度に内閣府が行った「結婚・家族形成に関する意識調査」によると、家庭での家事や育児を夫婦のどちらが行うべきか聞いたところ、「どちらかというと妻の方が多く負担」と答えた人が既婚全体で41.0%と最も多い結果に。「妻方が多く負担」と答えた20.5%と合わせると、妻が主体と考えている人は60%以上になります。
このように日本では、「家事や育児は妻が主体」という意識が根強く、夫は妻の家事や育児をサポートはするが主体になることはまれという現状が。これは障害児がいる夫婦であっても変わらないでしょう。
さらに子どもに障害があると、様々な問題や困難に対応する必要があります。しかし夫婦の考え方や価値観、対応が異なる場面も多く、その違いを受け入れられずに相手を信用できなくなってしまうこともあるでしょう。価値観の違いは健常児がいる夫婦や子どものいない夫婦でも離婚原因の一位です。こと障害児のいる夫婦では、価値観の違いがさらに大きな溝となることは想像に難くありません。
参考:結婚・家族形成に関する意識調査<結婚観(1)>|内閣府
価値観の違いで離婚を考えている方は、こちらの記事を参考にしましょう。
「価値観の違いで離婚したい…よくある理由と離婚の可否、迷ったときの相談機関を紹介」
子どもの将来に対する意見の食い違い
夫婦間の価値観の違いの中には、子供の将来に対する意見の食い違いもあります。特に父親が子どもの障害を受け入れられないケースで、意見の食い違いが生じるようです。例えば子どもが小学校に入学するという段階で、母親は子どものために養護学校に入れたいと思っていても、父親は通常の小学校に入れようとするといったケースです。
母親は子どもの障害の程度やできること・できないことを日々実感しています。こうした現状を踏まえて将来についても考えているのに、父親が世間体や障害への無理解、不受容から夫婦の意見が合わないと、少しずつ夫への気持ちが離れていってしまうでしょう。
周囲に相談相手がいない
障害児を持つ親は孤独になりがちです。周囲に配偶者以外の相談相手がいないのも、障害児を持つ親が抱える問題の一つです。障害の程度によっては子どもが特徴的な行動をしてしまうため、「親のしつけが悪い」など、冷たい視線にさらされることが少なくありません。
さらに子どもに障害があると、他の子どもとかかわりを持つことが難しいため、親同士が仲良くなる機会も減ってしまうでしょう。障害がある子どもの行動を見て、親がわが子を遠ざけてしまうケースも。このように場外時の親は世間から孤立しやすい状態にあるといえます。
家庭の外に癒しを求めてしまう
障害児のいる家庭では、父親の方が家庭の外に癒しを求めてしまい、離婚に至るというケースが見られます。妻は障害を持つ子どもの世話や対応で手いっぱいになる一方で、子どもの障害を受け入れられない夫は家庭に居場所がないと感じたり、息がつまると感じて家庭外で浮気や不倫に走ってしまうという例が少なくありません。
障害児のいる夫婦の離婚を回避するには?
障害児のいる夫婦の場合、そうでない場合と比べて離婚に至る割合が高いという結果が出ています。それでは離婚を回避するにはどのようなことをすればいいのでしょうか。
子どもの障害について理解を促す
子どもの障害を受け入れられない夫の場合、まずは障害についての理解を促す必要があります。妻から障害についてうまく説明できないときや夫に理解を促すのが難しいときには、児童相談所や医療機関、カウンセラーの力を借りてみてはいかがでしょうか。また他の障害児家族と家族ぐるみの付き合いを通して、理解を促す方法もあります。
そしてなるべく子どもとコミュニケーションを取る機会を増やすことで、父親自身に子どもとかかわってもらってください。このような方法で試行錯誤しながら、子どもの障害についての理解を促し、父親としての自覚を持てるようにするといいでしょう。
夫婦でともに育てる意識を持つ
障害の有無にかかわらず、子どもは夫婦でともに育てる意識を持つのが重要です。日本ではいまだに「育児は母親の仕事」という意識が根強くあります。しかし障害児のいる家庭ではとくに、父親からの協力が欠かせません。そのためには夫婦の協力体制が取れているかしっかり確認し、一方に偏った育児の負担を解消していきましょう。
父親に子どもの障害についての理解が不足しているときには、上で説明した方法で理解を促してください。子どもの通院や治療にお金がかかるときには経済的な面での理解も欠かせません。「父親としてやって当たり前」と思っていてもそれを態度に出さないようにし、何をしてくれると助かるのか具体的な指示をしながら、少しずつ育児にかかわってもらうようにするのがポイントです。
周囲のサポートを受ける
夫婦だけで障害児を育てていくのは大きな負担です。どちらかがケガや病気になったときには、どうにもならない状況に陥ることも。そのような状況に備えるためにも、周囲にサポートを求める姿勢は大切です。近くに親や兄弟が済んでいるのであれば、短期間でも同居して家事を手伝ってもらったり、子どもを預かってもらったりして夫婦の負担を減らすといいでしょう。
とくに夫婦が互いのストレスや余裕のなさから関係がギクシャクしているときには、周囲のサポートを受けて少し余裕ができると、関係が改善できる可能性があります。
療育活動への参加
療育活動への参加も、障害児のいる家庭をスムーズ運営する上で重要です。養育とは、障害やその可能性がある子どもに対して自立を促して、生活しやすくするようにサポートすることを指します。教育と治療を掛け合わせ、子どもそれぞれの悩みに応じたアプローチで発達を促していきます。
お住まいの地域の「児童発達支援センター」や「子ども医療療育センター」などで、診療やリハビリテーション、相談などを行っています。他の子どもと一緒に遊んだり、障害児を持つ親とのつながりができて情報交換も可能です。公共施設の他、民間の会社でも療育を行っているところがあるので、まずはどのようなところがあるかチェックしてみましょう。
支援制度を積極活用
公的な支援制度を活用して、子育ての負担を軽くする方法があります。具体的には「障害者手当」や「障害基礎年金」といった年金や手当を受けられる制度です。また障碍者を対象とした税金の控除や公営住宅への優先入居などの制度もあります。また児童デイサービス等の利用や、保育園の訪問支援を受けられる制度も。
公的な支援や施設を利用する場合には、障害者手帳が必要なケースがほとんどです。障害が一定の基準を満たせば障碍者手帳が発行されるため、子どもの障害の程度を見て将来に備えて取得しておくことをおすすめします。
施設の利用も考える
障害のある子どもを対象とした施設を利用することで、通所又は入所による支援が受けられます。施設では子どもの療育だけでなく、障害の程度に応じた社会的なトレーニングも受けられます。障害児が利用できる施設には、次のような種類があります。
名称 | 特徴 |
---|---|
福祉型障害児入所施設 | 障害児が入所しながら、地域や家庭で必要な日常生活の指導を行う
短期入所事業では宿泊のみ |
医療型障害児入所施設 | 障害児が入所しながら、地域や家庭生活で必要な機能訓練や日常生活の指導、治療などを行う |
児童発達支援センター | 通所により障害児の日常生活における基本的な動作の指導や知識技能の習得、集団生活への適応訓練等を実施する |
上記のような施設については、市区町村の窓口や児童相談所に相談してください。
障害児の子育てを理由に離婚できる?
障害児のいる夫婦の関係が悪化して修復が不可能なほどになった場合、離婚を選択する人が少なくありません。では障害児の子育てが理由で離婚できるのでしょうか。
夫婦間の合意があれば離婚可能
離婚理由が何であれ、夫婦間で離婚の合意ができていれば離婚できます。このような離婚のことを「協議離婚」といい、日本では約9割が協議離婚で離婚しています。夫婦間の話し合いで合意に至らないときには家庭裁判所による「調停離婚」を目指します。ここでも双方の合意が必要です。
離婚の合意ができたら、子どもの親権や養育費、慰謝料や財産分与についても話し合いましょう。これらの条件で合意ができたら離婚協議書を作成し、取り決めた内容を残しておくのがベストです。離婚協議書を公正証書にしておくと、取り決めが反故にされたときなどのトラブルを回避できます。
合意が得られないときには離婚裁判
話し合いや調停で決着がつかなかった場合には、最終的に離婚裁判を提起する必要があります。このような離婚のことを「裁判離婚」といいます。離婚条件で合意できなかった場合も同様です。
法定離婚事由が必要
離婚裁判で離婚が認められるためには、民法第770条に定める「法定離婚事由」が必要です。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
引用:民法|e-GOV法令検索
離婚裁判の費用について知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
「離婚裁判の費用を徹底解説!金額の相場や払えないときの対処法、注意点とは?」
子どもの障害だけでは離婚が認められない
離婚裁判になった場合、子どもに障害があることや障害児の子育てだけで離婚が認められません。障害児がいることは法的に離婚できる理由ではないからです。ただし次のようなケースでは、離婚裁判で離婚が認められる可能性があります。
離婚が認められるケース | 法的根拠 |
---|---|
|
不貞行為(民法第770条) |
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悪意の遺棄(民法第752・770条) |
|
その他婚姻を継続しがたい重大な事由(民法第770条) |
不貞行為や悪意の遺棄がない場合でも、3~5年の長期の別居があると夫婦関係が事実上破たんしており修復の可能性が見込めないとして離婚が認められる可能性があります。
離婚裁判には証拠が必要
離婚裁判で離婚が認められるためには、第三者が判断できる客観的な証拠が必要です。離婚原因によって、どのような証拠が必要になるかが変わってきます。具体的な証拠の内容や証拠の取り方などに関しては、離婚問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
子どもの親権の判断基準
未成熟の子どもがいる場合には、子どもの親権をどちらにするか決めないと離婚できません。2024年5月に施行される予定の法改正により離婚後の共同親権を選択できるようになりますが、それまでは母親か父親のどちらを親権者にするか決める必要があります。
親権者は双方の話し合いでどちらにするか決めるのが一般的です。話し合いで決着がつかないときには、調停や裁判で親権を求める手続きに移行します。親権者を法的手続きで決めるときには、次のような点が重要視されます。
子どもの養育環境を整える
どちらが親権者にするのが相応しいか決める場合、最も重要視されるのは「子どもの利益」です。子どもにとって、父親と母親のどちらと一緒に暮らすのが幸せなのかを総合的に判断します。そのために離婚後の養育環境を整えることは必須と考えましょう。
- 現状維持(子どもの住む場所を変えない)
- サポートできる祖父母との同居
- 専門施設や学校に通いやすい場所に引っ越す
- 親権者の健康状態
- これまでの養育実績
このようなことを考え、子どもが安心して育っていけるような環境を整えましょう。
収入や生活態度も重要
子どもの親権を獲得する上で、離婚後の収入や生活態度も裁判に大きく影響します。障害児がいる場合、全く働けなかったりフルタイムの仕事ができないということもあるでしょう。しかし収入が無い状態では、子どもを幸せにするために十分な環境とはいえません。
また子どもの世話をしない(ネグレクト)、虐待をする恐れがあるなどの生活態度によっては、親権者としてふさわしくないと判断される可能性があります。
親権争いで母親が負ける理由は、こちらの記事を参考にしてください。
「親権争いで母親が負ける理由とは?親権争いを勝ち取る6つの対策も解説」
離婚時の養育費について
障害児を連れて離婚する場合、問題になるのは離婚後のお金の問題。とくに障害がある子どもを育てる場合、そうでない場合と比べてお金が必要になります。また子どもの養育のために時間を割かれて、フルで働けないケースも少なくありません。
そのようなときに重要なのが養育費です。養育費は親権を持たない方の親が、親権者に対して支払う費用のこと。食費や医療費、教育費など子どもを育てていく上で必要なお金です。
養育費は未成熟子に対する扶養義務
養育費の支払いは、未成熟な子どもに対する親の扶養義務です。本来民法では、親権者であるかどうかにかかわらず、父母にはこの扶養義務があるとしています。未成熟の子に対する親の扶養義務では、自分(親)と同程度の生活を子に保障する「生活保持義務」があるとされています。
養育費はこの生活保持義務に基づいて、扶養義務者(養育費を支払う側)と同じ水準の生活を被扶養者(子ども)にも保証するというものです。
養育費は子どもが成熟するまで必要
養育費は子どもが成熟するまで必要な費用です。ここでいう「成熟」とは、経済的に自立して子ども自身で生計を維持できる状態をいいます。一般的には子どもが未成年のうちは未成熟子とみなされて、養育費の支払いも「子どもが成人するまで」や「就職するまで」と定められることが多いです。
養育費の金額を算出する方法
離婚時に養育費の金額を決める場合、金額の相場基準としたうえで、夫婦で話し合って具体的な金額を決めていきます。多くの場合、養育費の相場は最高裁判所が公表している「養育費算定表」に基づいて、夫婦の収入や子どもの数、子どもの年齢によって簡単に算出できます。養育費の相場は、共同親権か単独親権かは問いません。
養育費の相場について知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
「離婚時の養育費の相場が知りたい!ケース別の相場や増額方法、請求方法とは?」
養育費が加算される可能性
上で示した養育費算定表は、あくまでも標準的な家庭を想定したものです。特別な事情がある場合には別途考慮し、養育費を加算する必要があるかもしれません。例えば障害があることで、子どもの医療費や教育費が通常よりも多くかかるようなケースです。
これらの出費を具体的な証拠をもとに主張していくことで、養育費の加算が認められる可能性があります。
障害児の場合は成人しても未成熟子とみなされる場合が
子どもの障害の程度によっては、成人しても未成熟子とみなされる場合があります。この場合は障害の程度や実際に仕事をした場合の能力などを勘案して、未成熟子といえるのかを判断する必要があります。また成人以降も治療のために入通院が必要である場合や、通常の就業ができない場合には成人以降も養育費を請求できる可能性が。
一方で未成熟子といえない場合には、これまでと同様の養育費を負担する必要はなくなります。保護者である母親の収入で生活を賄えるかや、賄えないのであればどの程度不足しているのかを見極め、余力の範囲内で扶養する「生活扶助義務」を負うにとどまります。
養育費は何歳まで支払うかに関して詳しくは、こちらの記事を参考にしましょう。
「養育費は何歳まで支払う?支払期間の考え方や変更・減額方法を解説」
離婚後の生活を考える上でのポイント
自分が障害児の親権者となった場合、離婚前よりも負担が生じることへの覚悟は必要でしょう。そのためには離婚前から次のようなポイントをよく考えるべきでしょう。
一人で育てていけるか
まずは障害児を自分一人で育てていけるかよく考えるべきでしょう。離婚後に子どもを一人で育てることになれば、大きな負担がかかるのは目に見えています。とくに親族などのサポートが得られない場合は、より負担は大きくなります。
肉体的・精神的な負担はもちろん、金銭面での負担を考えてそもそも離婚すべきかをよく考えるべきでしょう。
周囲の理解があるか
自分一人で障害児を育てていけるのかを検討するときには、周囲のサポートが得られるかもポイントです。自分が仕事をしている間の子どもの面倒は誰が見られるのか、子どもが病気したときにすぐに対応できるかなど、職場や親族の理解・協力が不可欠です。
生活は成り立つか
自分の収入や養育費、公的な年金・手当で離婚後の生活が成り立つかも十分に計算する必要があります。養育費に関しては、離婚時に取り決めた金額では足りなくなることが少なくありません。離婚後に増額要求をしても、元夫の合意が得られないばかりでなく、そもそも連絡が取れないというケースも。
養育費の取り決めをするときに、どのような条件を満たせば増額できるかといった項目を離婚協議書などに入れておくと安心です。
離婚時に受け取れるお金について
離婚時には養育費以外にも、次のような金銭を受け取れる場合があります。
財産分与
婚姻期間中に夫婦が協力した共有財産は、名義にかかわらず離婚時に夫婦が公平に分けることができます。これを財産分与といいます。財産分与では子どもの有無や障害のあるなしなどの事情は考慮されませんが、夫婦の話し合いで合意が得られれば、財産分与で多めに受け取れる可能性があります。
また財産分与をしてもなお離婚後に一方的に困窮する可能性がある場合には「扶養的財産分与」として、経済的余裕がある側が生活費の補助となる一定の金額を、一定期間支払うという約束ができます。
慰謝料
慰謝料は離婚原因を作った側が、もう一方の配偶者に支払う精神的苦痛に対する損害賠償金です。子どもの障害が理由で夫婦仲が悪くなり離婚に至った場合には、どちらか一方に原因があるといえないため、慰謝料の請求はできません。
しかし子どもの障害がきっかけで不貞行為や悪意の遺棄、モラハラやDVなどをした場合には、それらを根拠として慰謝料を請求できる可能性が。裁判で離婚を求める場合と同様に、離婚原因が相手にあることを証明する証拠が必要です。専門家の助けを借りながら、証拠の確保に努めましょう。
公的支援・手当の手続き
離婚後に一人で障害児を育てる場合、金銭的な負担が大きくなるのは必至です。なるべく金銭的な負担を軽くするために、次に紹介する公的手当や年金制度の手続きを忘れずに行ってください。
公的制度 | 内容・手続き |
---|---|
障害基礎年金 | 障害児が20歳を過ぎると、個人として障害基礎年金の請求ができる
年金額は障害の程度に応じて、1級:1,020,000円、2級:816,000円(昭和31年4月2日以後生まれ)となる |
障害児福祉手当 | 精神または身体に重度の障害があり、日常生活で常時の介護が必要な場合に受給できる
支給月額は15,690円(令和6年4月~) 受給資格者の前年の所得に応じて受給制限がある |
特別児童扶養手当 | 20歳未満で精神又は身体に障害がある児童に対する手当
支給月額は障害の程度に応じて、1級:55,350円、2級:36,860円(令和6年4月~) |
離婚後の児童手当や児童扶養手当の手続きについて詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
「離婚後の児童手当・児童扶養手当の手続きについて|ケース別の変更方法と基礎知識」
困ったときの相談先
離婚前後で困ったことがあるときには、次のような相談先に相談しましょう。
児童相談所
障害児に関する相談は、最寄りの児童相談所で行えます。カウンセリングや公的手当について、施設の相談などの幅広い支援が受けられます。また子どもに知的発達の遅れや自閉傾向、肢体不自由や言葉の遅れがあるのではないかと気になったときにも相談が可能。
電話で相談を受け付けている場合もあるので、困りごとがあったときには相談してみましょう。
子育て支援センター・障害者相談センター
児童相談所以外の子育て支援センターや障害者相談センターでも、障害児に関する相談ができます。子育て支援センターは主に乳幼児の親が交流を深められる場ですが、子育てや発達に関する相談も可能です。また障害者相談センターでは、入所施設や医療機関と連携して、障害がある子どもが生活しやすい支援を行っています。
自治体役場・福祉事務所・保健所
お住いの自治体役場や福祉事務所、保健所などでも子育てに関する相談に応じています。相談には医師や臨床心理士、ケースワーカーなどの専門家が対応し、必要な支援や手当、施設やサービス等のアドバイスも行っています。
障害児の親は相談先が少なくなりがち。離婚後に孤独な子育てをしないためにも、このような相談機関を利用しましょう。
弁護士
離婚の意思が固まって、よりスムーズにより有利に離婚したい方は、弁護士に相談してください。離婚問題に強い弁護士なら、障害を持つ子どもとその親の負担を考慮し、離婚後の生活を見据えたアドバイスを受けられます。さらに離婚するかどうかだけでなく、適切な離婚条件についても教えてもらえるでしょう。
裁判で離婚や慰謝料請求する場合には、法的に有効な証拠の取り方や裁判所での手続き、裁判での主張立証も行ってくれます。とくに自分一人で障害児を見る場合、裁判に出られないことも大いに考えられます。弁護士に依頼すれば、離婚に関する法的手続きの負担を軽減できるはずです。
まとめ
障害児を抱える夫婦は、そうでない夫婦と比べて離婚率が格段に高いのが現状です。夫が障害に対する理解がなかったり夫婦間の価値観の違いが浮き彫りになるのが理由です。さらに母親だけに負担が増え、心身共にストレスフルな状態に。一方で夫は子どもにかかりきりになっている妻に不満を抱いたり、家庭から背を向けるようになり夫婦関係に亀裂が生じることも少なくありません。
一方が離婚を拒否している場合、障害児がいることだけで離婚はできません。離婚裁判で認められるには、それ以外の法定離婚事由が必要です。親権者を決める場合は「子の福祉」を最優先にした判断が求められます。慰謝料を請求する場合には、不法行為があったことが分かる証拠が必要です。
障害児を抱えての離婚は、金銭面や生活面での負担が増えます。周囲のサポートや生活が成り立つかなどを慎重に検討したうえで結論を出しましょう。離婚に関する不安があるときには、弁護士に相談するのがベストです。有利に離婚できるアドバイスを受けられるほか、法的手続きも代理人として進めてもらえるので、子どもの世話に充てる時間を確保できます。